栂池マウンテンリゾートでリフト事故発生、心肺停止に―リュックサックが招いた安全対策の盲点とは
ニュース要約: 長野県のスキー場で20代女性がリフトに宙づりとなり心肺停止で搬送される事故が発生。リュックのベルトが搬器に挟まったことが原因とみられ、利用者の盲点となっていた安全上のリスクが浮き彫りになりました。本記事では事故の詳細、統計データ、国内外の事例を交え、インバウンド増加に伴う安全管理体制の再構築と利用者が遵守すべき対策を専門的視点から解説します。
スキー場リフト事故で心肺停止 安全対策の盲点が浮き彫りに
2026年1月30日、長野県小谷村の「つがいけマウンテンリゾート」で、スキーリフト利用中の20代オーストラリア人女性が宙づりとなり心肺停止状態で病院に搬送される事故が発生した。冬季スポーツシーズン最盛期に起きた今回の事故は、スキーリフトの安全管理体制に改めて課題を投げかけている。
事故の経緯と現場の状況
事故が発生したのは午前9時2分頃。女性は「つが第2ペアリフト」を利用中、終点付近で降りることができず、Uターン後に宙づりになったとみられる。スキーパトロールが救助にあたったが、女性は心肺停止状態で緊急搬送された。被害者のプライバシー保護のため、運営会社は現時点で詳細な安否状況を公表していない。
長野県警は業務上過失傷害の疑いを視野に捜査を開始。運営会社は当該リフトを1月31日以降営業休止とし、社内での原因究明と警察の捜査に全面的に協力する姿勢を示している。
リフト事故の発生傾向と統計
全日本スキー安全対策協議会のデータによると、スキー場におけるリフト関連事故の受傷率は、輸送人員1万人あたり約0.009~0.011%と極めて低い水準を維持している。2024/25シーズンの受傷率は0.0094%で、過去10年間で3番目に低い数値だった。
しかし、事故の発生場所には明確な傾向がある。分析によると、負傷事故の大半は「降り場」で発生しており、スキーヤーでは降り場が乗り場の約1.32倍、スノーボーダーでは3.44倍の負傷数を記録している。特に子供の乗り損ね事故が目立ち、体格に合わないリフト設計が要因の一つとして指摘されている。
一方、リフト乗車中の転落や負傷は極めて稀で、全体の事故件数に占める割合は低い。このため、業界では乗車中の安全性は比較的高いとされてきたが、今回のような宙づり事故は異例のケースといえる。
過去の重大事故事例
日本国内では、1991年11月19日に立山山麓スキー場でリフト取り付け作業中の作業員5人が転落し死傷する事故が発生している。作業中の安全対策不足が原因とされ、固定・拘束の不備が転落を招いたと分析された。
また、海外では2018年3月にジョージアのグダウリスキーリゾートで、リフトが高速逆回転し11名が負傷する事故が発生。係員の誤操作説と停電説が報じられたが、いずれも人的エラーやメンテナンス不足が背景にあった。
中国では2016年頃、前年の点検で異常なしとされたリフトで事故が発生し、40名以上が負傷、100名以上が取り残される事態となった。点検後も異常が多発していたにもかかわらず、手動運行を継続した管理体制の不備が問題視された。
今回の事故で浮上した安全対策の盲点
関係者の証言や事故分析から、今回の事故ではリュックサックの腰ベルトバックルがリフト搬器に挟まったことが原因の可能性が高いとみられている。未装着のバックルがリフトに絡まり、宙づり状態で首や胸部が圧迫される「絞扼性窒息」のリスクが指摘されている。
これは一般的な安全指導では見落とされがちな点だ。スキー場では「リュックサックの腰ベルトを必ず外す、または正しく装着する」という基本動作が徹底されていない可能性がある。特に外国人観光客の増加に伴い、言語の壁や安全意識の違いが課題となっている。
国の安全基準と事業者の責任
国土交通省が定める「索道安全法」では、月次点検、年次点検、特別点検が義務付けられている。事業者は月1回の日常点検、年1回の分解整備点検、5年ごとの耐用年数点検を実施し、「乗客死亡事故0件」「人身障害事故3年連続0件」を目標に掲げ、年度安全報告書を提出する義務がある。
しかし、これらの基準は主に設備面の点検に重点が置かれており、利用者の服装や荷物に関する安全指導の標準化は十分とは言えない。今回の事故を受け、係員による乗車前チェックの強化や、多言語対応の安全案内の徹底が求められる。
利用者が守るべき安全対策
スキーリフト利用時には以下の点に特に注意が必要だ。
まず、リュックサックの腰ベルトは必ず外すか、胸部ベルトを正しく装着し、緩みや挟まりを防ぐこと。終点付近でリフトが減速したら即座に立ち上がり、後方へ素早く降りる準備をする。降り損ねると緊急停止で空中に留まり、落下や衣類絡まりのリスクが高まる。
また、首周りのスカーフやストラップは短くまとめ、引っかかりやすいものを避けること。2人乗り時はペアでタイミングを合わせ、互いに声をかけ合うことも重要だ。
今後の課題
運営会社は社内調査で係員管理の強化を進めているが、業界全体として救助手順の標準化や初期対応の適切性に関する調査は十分とは言えない。統計データは充実しているものの、現場の救助マニュアルや第三者評価の導入が今後の課題となる。
インバウンド観光客の増加が続く中、多言語対応の安全教育や、国際標準に準拠した安全管理体制の構築が急務だ。今回の事故を教訓に、スキー場業界全体で安全対策の見直しが求められている。
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