麻疹(はしか)感染が250例超に急増:輸入症例と20〜30代の「免疫ギャップ」を徹底解説
ニュース要約: 2025年、日本国内の麻疹(はしか)感染者数が累計250例を超え、前年を大幅に上回った。感染急増の要因は国際移動の活発化に伴う輸入症例(特にベトナム経由)であり、患者の中心はワクチン接種歴が不確実な20代、30代の若年成人層にシフトしている。当局は「免疫ギャップ」解消のため、未接種・1回接種者へのMRワクチン追加接種と水際対策の強化を急務としている。
麻疹(はしか)感染、2025年累計250例超え:輸入症例が急増、20~30代の「免疫ギャップ」浮き彫りに
【東京・大阪発】 2025年に入り、日本国内における麻疹(はしか)の感染者数が急増し、公衆衛生上の警戒レベルが高まっている。厚生労働省および国立感染症研究所の最新データ(第48週、11月末時点)によると、年間の累計感染者数は少なくとも251例に達し、前年(45例)を大幅に上回った。この感染拡大の主因は、新型コロナウイルス対策の緩和に伴う国際移動の活発化による「輸入症例」であり、特にベトナム経由での持ち込みが目立っている。
感染の中心は、従来の小児層ではなく、20代30代の若年成人層にシフトしており、この世代が抱えるワクチン接種歴の不確実性、いわゆる「免疫ギャップ」の解消が急務となっている。
都市部中心に感染拡大、輸入症例が全体の約3割
麻疹の発生は、国際線が発着する大都市圏、特に東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県といった関西圏・関東圏での報告が集中している。感染者の大半は、海外からの帰国者や訪日外国人を介した二次感染、三次感染によって引き起こされている。
2025年第44週時点の報告では、国内232例のうち、国外感染または国外からの輸入が推定される症例が78例に上り、そのうちベトナムでの感染が推定されるケースが56例と、特定の地域からのウイルス流入が明確になっている。
患者の年齢中央値は26歳前後であり、20代が全体の約28%、30代が約19%を占める。若年成人は社会活動が活発なため、感染が広範囲に及ぶリスクが高く、公共交通機関の利用や、集団での接触を介した感染事例が複数確認されている。
接種率の低迷と2回未完了者のリスク
麻疹は空気感染する極めて感染力の強いウイルスであり、集団免疫を維持するためには、世界保健機関(WHO)が推奨する**接種率95%**以上の達成が不可欠である。しかし、日本の現状は依然として課題を抱えている。
2023年度の定期接種率は、1歳児を対象とする第1期で94.9%、小学校就学前を対象とする第2期で約92.0%と、目標の95%を下回る状況が続いている。特に第2期の低迷は、小学校入学前の免疫獲得機会を逃していることを示唆する。
さらに、2025年に報告された麻疹患者の接種歴を分析すると、驚くべき実態が明らかになる。第1~19週の患者96例のうち、2回接種未完了者が全体の79%(76例)を占めており、特に20代30代の若年成人層でその傾向が顕著である。この世代は、麻疹ワクチンが1回接種体制だった時期に幼少期を過ごしているため、免疫が不十分な状態にある「免疫ギャップ世代」と見なされている。
緊急の追加接種と水際対策の強化
麻疹排除状態(2015年認定)の維持を目指す日本にとって、この感染再拡大は重大な脅威である。公衆衛生当局は、未接種者及び1回接種者に対するMRワクチン(麻疹・風疹混合)の追加接種(ブースター)を強く推奨している。特に医療従事者、教育・保育関係者、そして海外渡航予定者は、抗体検査を待たずに速やかな任意接種を検討すべきだ。
また、2025年には大阪・関西万博など国際的なイベントが予定されており、さらなる輸入症例のリスク増大が懸念される。このため、空港検疫や医療機関におけるサーベイランスの強化、発熱・発疹患者に対する厳格な隔離措置と渡航歴の聴取が徹底されている。
麻疹の初期症状は発熱、咳、鼻水など風邪と酷似するが、口内に現れるコプリック斑が診断の鍵となる。重症化すれば肺炎や脳炎といった致死的な合併症を引き起こす可能性があり、単なる風邪とは一線を画す。
国民一人ひとりが自身の接種歴を確認し、免疫不十分な場合は速やかにワクチンを接種することが、感染拡大阻止への最も確実な対策となる。公衆衛生当局は、麻疹排除の継続に向け、国民に対し冷静かつ迅速な行動を改めて強く呼びかけている。
(了)