【大相撲】時疾風が示す「速い相撲」の真価:ぎっくり腰を乗り越え、前頭十四枚目から優勝争いの渦中へ
ニュース要約: 2025年大相撲九州場所で、西前頭十四枚目の時疾風(ときはやて)が異例の快進撃を見せている。場所前のぎっくり腰を乗り越え、十二日目時点で9勝3敗と優勝争いの最前線に踏みとどまる。得意の「速い相撲」で難敵を破り、極めて異例の賜杯獲得の可能性も浮上。彼の精神的な強さと、今後の番付上昇に期待が高まる。
異例の快進撃、時疾風が示す「速い相撲」の真価――ぎっくり腰を乗り越え、九州場所で優勝争いの渦中へ
【福岡】 2025年大相撲十一月場所(九州場所)は、西前頭十四枚目の時疾風(ときはやて)(29=時津風)が、土俵に新風を吹き込み、異例の優勝争いを展開している。場所前のぎっくり腰という大きな試練に見舞われながらも、十二日目(20日)を終えて9勝3敗と、トップを走る横綱・大の里、豊昇龍、関脇・安青錦の10勝2敗組を僅か1差で追う「V戦線」の最前線に踏みとどまっている。この快進撃は、番付の常識を覆すものであり、相撲界全体、そして地元・宮城県からも熱い視線が注がれている。
難敵を破り、3敗を死守した勝負強さ
時疾風の勢いを象徴するのが、十二日目の熱海富士戦だ。過去2戦全敗と苦手にしていた難敵に対し、得意の左四つに持ち込まれながらも、土俵際で巧みに巻き替えて左上手を取り、逆転の下手投げで勝利をもぎ取った。
「勝ててうれしい」と語った時疾風だが、この勝利は単なる白星以上の意味を持つ。場所前に発症したぎっくり腰の影響を感じさせない、粘り強い相撲を展開しており、技術的な成長も著しい。特に、スピード感と思いきりの良さを身上とする彼の相撲は、四股名「時疾風」に込められた「速い相撲を取る」という願いを体現している。
現在、優勝争いは十三日目で大の里と安青錦が直接対決を迎えるなど、緊迫の局面にある。時疾風がもしこの難局を乗り越え、残り3日間で白星を重ねれば、前頭十四枚目からの賜杯獲得という、極めて異例の偉業達成も現実味を帯びてくる。仮に優勝を逃したとしても、この地位での勝ち越し、あるいは二桁勝利は、来場所以降の大幅な番付上昇を確実にするだろう。
試練を乗り越えた軌跡:恩返しを胸に
時疾風秀喜は1996年8月、宮城県栗原市に生まれた。高校時代にはインターハイ相撲競技で3位入賞を果たし、教員を志して東京農業大学へ進学した。しかし、大学3年次に全日本選手権でベスト16に進出したこと、そして同学年の翠富士や錦富士が角界入りしたことに刺激を受け、大相撲の世界へ飛び込んだ。
時津風部屋に入門し、2019年3月に初土俵を踏んだ時疾風は、2022年3月に「時疾風」に改名。この四股名の下、持ち前の瞬発力と体格を生かした相撲で順調に出世を重ね、2025年7月場所には自己最高位の西前頭十一枚目に到達した。
しかし、彼の相撲人生は順風満帆ではなかった。2025年9月場所では左太ももの肉離れや右膝内側靭帯損傷により途中休場を余儀なくされ、今場所は怪我からの復帰戦として臨んでいる。その中で見せる驚異的な活躍は、彼の精神的な強さを物語っている。
さらに、彼の背景には、中学2年生の時に経験した東日本大震災がある。1カ月間、ろうそくと井戸水で生活した経験から、「相撲が取れることのありがたさ」を痛感し、東北への恩返しの気持ちをもって土俵に上がっているという。
若者文化にも響く「等身大の魅力」
時疾風の活躍は、競技の枠を超えて若者文化にも影響を与えている。彼の親しみやすいキャラクター、特に趣味がアニメ鑑賞であることや、昨年結婚した妻とのテレビ電話でリフレッシュするというプライベートのエピソードは、Z世代のファンにも共感されやすい要素だ。
2025年6月には、日本相撲協会とパ・リーグ6球団のコラボ企画として、地元・楽天モバイルパーク宮城でセレモニアルピッチを務めるなど、地域密着型のメディア露出も進んでいる。彼の活躍は、SNS上で「#時疾風」「#大相撲九州場所」といったハッシュタグをトレンド入りさせ、相撲という伝統競技に新たなファン層を呼び込む原動力となっている。
大相撲界のホープとして期待される時疾風。場所後の番付上昇は確実視されるが、残された土俵で、彼がどこまでこの優勝争いをかき乱し、角界の歴史に名を刻むのか。その一挙手一投足に、全国の相撲ファンが固唾をのんで見守っている。