帝王切開はなぜ無償化の恩恵が限定的か? 一時金廃止で妊産婦が直面する新課題
ニュース要約: 政府が進める出産費用「実質無償化」は正常分娩が主な対象で、増加傾向にある帝王切開は恩恵が限定的だ。2026年度の政策見直しで出産一時金(54万円)が廃止されると、帝王切開家庭は自己負担が増加する可能性がある。全ての出産家庭が安心して出産できるための財政支援の継続が急務となる。
「帝王切開」費用、無償化の波に乗れず?
2026年度政策見直しへ、出産一時金廃止後の家計負担を検証
【東京】(2025年12月5日)少子化対策を主要課題とする日本政府は、2026年度を目途に「出産費用」の保険適用(実質無償化)を目指している。しかし、医療上の必要性から増加傾向にある「帝王切開」による出産においては、無償化の恩恵が限定的となる見通しだ。現在、家計の大きな助けとなっている「出産一時金」が廃止された後の経済的負担について、予見される課題と妊産婦への影響を検証する。
高まる帝王切開率と54万円一時金の役割
厚生労働省の統計によると、日本の帝王切開率は年々増加し、2020年時点で一般病院では27.4%に達している。地域差も大きく、医療提供体制の違いが反映されている。
2025年現在、帝王切開の「出産費用」総額は、多床室利用の場合で約51万円~55万円、個室利用では差額ベッド代などが加算され約64万円~75万円が相場となっている。
この費用負担を軽減しているのが、現行の「出産一時金」(1児あたり54万円)である。多床室利用の場合、一時金と産科医療補償制度(約1.2万円)を合わせれば、実質的な自己負担額はほぼゼロ、または数万円に抑えられているのが現状だ。
しかし、個室利用や特別な処置があった場合、一時金でカバーできない自己負担額は10万円から20万円以上に達するケースも少なくない。帝王切開は公的医療保険の適用対象となるため、高額療養費制度を活用できるが、申請手続きや一時的な立て替えが必要となる。
政策の隘路:正常分娩と帝王切開の溝
政府が「こども未来戦略」に基づき進める出産費用無償化は、主にこれまで保険外診療であった正常分娩の費用を対象とする。2027年度以降の実施を目指しており、これにより、標準的な出産にかかる費用は全国一律で自己負担が求められなくなる方針だ。
一方で、帝王切開などの異常分娩については、すでに保険適用されているため、無償化の新たな対象範囲外とされた。政府の方針では、これらのケースでは「原則3割の自己負担を継続」することとされている。これに伴い、現状の経済的セーフティネットである54万円の「出産一時金」は廃止される予定だ。
この政策は、正常分娩の費用負担をゼロにする画期的な一歩であるものの、帝王切開を必要とする家庭にとっては、新たな経済的課題を生じさせる可能性がある。
現在、帝王切開の総費用が一時金でほぼ賄えているのは、手術そのものの医療費(3割負担分で約6万円~6.7万円)に加え、入院費やその他の費用が一時金の枠内に収まっているためである。しかし、一時金が廃止され、帝王切開にかかる医療費の3割負担(高額療養費制度適用前)がそのまま残存した場合、費用負担の構図が大きく変わる。特に、地域や施設によっては出産費用が高騰しており、保険適用外の付加サービス(お祝い膳など)の自己負担も継続されるため、家計への影響は無視できない。
医療提供体制維持と妊産婦支援のバランス
帝王切開率の増加は、高齢出産化やハイリスク妊婦の増加といった医学的背景と密接に関わっている。医療機関側は、周産期医療の質の維持・向上のため、人員配置の充実やハイリスク妊婦の受け入れに対する評価の上乗せを政府に求めている。
政府は、無償化政策と同時に、人員配置を充実させた施設への支援策を検討しているが、妊産婦の経済的負担軽減という観点からは、帝王切開の「出産費用」に対する更なる支援策が求められる。
出産一時金が廃止された後、帝王切開を含む異常分娩の自己負担分をどのようにカバーするのか、高額療養費制度の適用手続きの簡素化や、手術費用そのものの診療報酬の見直しなど、多角的な議論が急務となる。少子化対策における出産費用無償化は、全ての出産家庭が安心して出産に臨める環境整備を目的とするべきであり、医療上の理由で帝王切開を選択せざるを得ない家庭への財政支援の継続が、今後の重要な論点となるだろう。
(共同通信社・経済部)