【2025年】クマ被害、過去最悪の危機:異常行動と環境変化が迫る「駆除か共生か」の難題
ニュース要約: 2025年、クマによる人身被害が過去最悪の196人に達し、特に冬眠前の異常行動と堅果類の不作が深刻化。農作物被害や観光損失など経済的打撃も拡大している。自治体は対策強化する一方、人命保護と生態系維持の観点から「駆除」か「共生」かで意見が対立。気候変動が進む中、実効性のある包括的アプローチが急務となっている。
クマ被害、過去最悪ペースで推移 冬眠前の異常行動と「共生」への模索
環境変化が引き起こす人身被害の急増 自治体は対策強化も根本解決に課題
2025年の晩秋、全国でクマによる人身被害が過去最悪のペースで増加している。環境省によると、4月から10月までの人身被害は196人に達し、特に10月だけで88人が被害に遭った。前年同期の79件から大幅に増加しており、専門家は「冬眠前の異常行動が長期化している」と警鐘を鳴らす。
急増する被害の背景
被害急増の背景には、複合的な環境要因がある。最も深刻なのは、クマの主要食料であるブナなど堅果類の著しい不作だ。岩手大学の山内教授は「餌不足により、クマは従来の植物食中心から肉食への転換を強いられ、人里への出没が増えている」と分析する。
さらに、2025年は記録的少雪により冬眠期間が短縮され、秋の活動期間が例年より長期化した。群馬県の研究では、ツキノワグマの約85.7%が冬眠開始の4~5日前に「大移動」と呼ばれる特異的な行動を示し、この時期に大量の餌を求めて行動範囲を広げることが確認されている。冬眠前の「大食い」行動が活発化する中、自然界の餌が不足すれば、必然的に人間の生活圏への侵入が増加する構図だ。
自治体の対策強化
こうした事態を受け、各自治体は対策を強化している。福島県をはじめ多くの地域で「クマ被害防止の10か条」など具体的な行動指針を策定し、学校や農業関係者と連携した啓発活動を展開。住民には、クマの出没時間帯の把握、音の出る鈴の携帯、食べ物の管理徹底などが呼びかけられている。
技術面でも進展が見られる。2025年には、AI・ドローンを活用したクマの行動監視システムの導入が進み、リアルタイムでの出没情報共有が可能になった。電気柵の設置支援や捕獲体制の強化も進められ、警察や自衛隊との連携体制も整備されつつある。
深刻化する経済的打撃
クマ被害は人身被害にとどまらず、地域経済にも深刻な影響を及ぼしている。2023年度の農作物被害額は7億円を超え、2025年は過去最悪レベルに達する見込みだ。秋田県だけで1.66億円超の被害が報告されている。
観光業への影響も無視できない。秋冬のトレッキングや温泉地で客足が大幅に減少し、風評被害も加わって全体の経済損失は年間1000億円を超えると推定される。自治体は駆除費用、防護柵設置、情報発信などに数億円規模の予算を投じているが、被害の増加傾向は止まっていない。
「駆除」か「共生」か
被害対策をめぐっては、「捕獲・駆除の強化」と「クマとの共存」という二つの立場が対立している。従来の対症療法的な駆除政策では根本的な解決につながらないとの指摘がある一方、人命保護と農業被害の観点から迅速な駆除を求める声も根強い。
環境団体は「過剰駆除は生態系に悪影響を及ぼす」として捕獲基準の厳格化を主張する。一方で、エコツーリズムなどクマを観光資源として活用する動きもあり、「共生」の可能性を模索する地域も出てきた。しかし、被害に直面する農家や住民からは、こうした議論は「理想論」と受け止められている面もある。
求められる包括的アプローチ
専門家は、単純な駆除強化でも理念的な共生論でもない、実効性のある包括的アプローチの必要性を指摘する。餌資源の回復を含む森林管理、科学的データに基づく個体数管理、地域コミュニティとの連携強化など、多角的な取り組みが求められている。
冬眠前の活発化は今後も続くとみられ、2025年の冬から2026年にかけての動向が注目される。気候変動が進む中、クマと人間の「距離」をどう保つか。この冬、日本社会は難しい選択を迫られている。