衝撃の米雇用統計:景気減速の影、FRB利下げ観測でドル円急落
ニュース要約: 11月20日発表の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が大幅に予想を下回り、米労働市場の急速な軟化を示唆。これを受け、市場ではFRBが12月FOMCで景気浮揚のための「利下げ」に踏み切る観測が急浮上した。景気減速懸念の高まりからドルが売られ、ドル円相場はドル安・円高へ傾斜している。
米雇用統計が示唆する景気減速の影:FRBは利下げ圧力に直面、ドル円は軟化へ
【ワシントン、東京】 2025年11月20日に発表されたアメリカ 雇用統計(米労働省)は、市場の予想を大きく下回る結果となり、世界経済の牽引役である米国の労働市場が急速に軟化している実態を浮き彫りにした。非農業部門雇用者数の伸びは急減速し、民間部門の雇用は減少に転じた。この結果を受け、連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め策が最終局面を迎え、来たる12月の連邦公開市場委員会(FOMC)では景気浮揚のための「利下げ」観測が一気に高まっている。
非農業部門雇用者数が予想を大幅に下回る
今回発表されたアメリカ 雇用統計(9月分を含む)によると、非農業部門雇用者数はわずか2.2万人増に留まり、市場が予想していた7.5万人増を大幅に下回った。また、失業率は4.3%と前月から小幅に悪化し、労働市場の勢いが失われつつあることを示唆している。
さらに懸念されるのは、民間部門の雇用状況だ。民間調査機関が公表したADP雇用統計では、9月の雇用者数がマイナス3.2万人を記録。政府機関の統計と民間統計の間に大きな乖離が見られるものの、企業の採用意欲が低下していることは明らかだ。
加えて、人員削減の動きも加速している。10月の米企業の人員削減数は15万人に達し、9月の5.4万人から約3倍近くに急増。これは、企業がコスト削減を急ぎ、景気後退への警戒感を強めていることの明確な兆候と見られている。複数の指標が示す労働市場の「軟化」は、コロナ禍後の急回復が一巡し、景気が「踊り場」に差し掛かっている可能性を強く示唆している。
12月FOMCの判断を難しくする「時差」
雇用統計は、FRBが金融政策を決定する上で最も重要視する経済指標である。しかし、今回の統計は政府機関閉鎖の影響で発表が1カ月半遅延しており、12月FOMCでは最新の雇用情勢を完全に把握できない状態での判断を迫られるという異例の事態となっている。
市場では、今回の弱い雇用統計の結果を受け、FRBがインフレ抑制よりも景気下支えに軸足を移すとの見方が強まり、利下げ期待が急速に高まっている。これまではインフレ率の動向に焦点が当たっていたが、今後は「景気減速」が政策決定の主要な論点となる公算が大きい。
ドル円相場はドル安・円高へ傾斜
市場の反応も鮮明だ。発表前、ドル円相場は148円台前半で推移していたが、弱い雇用統計の結果が公表されると、FRBの利下げ観測からドルが売られ、ドル安・円高の圧力が強まった。過去のデータ分析でも、非農業部門雇用者数が市場予想を下回った場合、ドルが売られやすい傾向が確認されており、今後の為替市場は、金利差よりも景気減速懸念が主導する展開が予想される。
また、景気減速懸念は株式市場にも波及し、株価下落圧力が強まる可能性が高まっている。FRBの利下げ観測の高まりは長期金利の低下を招き、金融市場全体に不確実性を増幅させている。
労働市場の構造的な変化:低賃金層の賃金急騰
ヘッドラインの数字だけでなく、労働市場の質的な変化にも注目が集まっている。特に、労働参加率の動向は失業率以上に重要であり、失業率が低下しても労働参加率が同時に低下している場合、それは「職探しを諦めた人が増えた」ことを意味し、労働市場の改善とは言えない。
さらに、経済政策研究所(EPI)の分析によれば、低賃金労働者層(賃金分布の下位10%)の実質賃金は、過去5年間で15.3%も上昇しており、中央値や高賃金労働者の伸びを大きく上回っている。これは、労働市場の逼迫と、21州での最低賃金引き上げなどの政策効果が相まって、低賃金層の待遇改善が進んだ構造的な変化を示している。
しかし、インフレ調整後の実質賃金全体で見ると、名目賃金の伸びが鈍化しているため、労働者の購買力は依然としてインフレの影響を受けている。
市場は今後、12月FOMCでのFRBの判断に加え、PCE(個人消費支出)やPMI(購買担当者景気指数)といった他の経済指標、そして企業の採用動向を注視し、米景気減速の深さを測ることになる。