小田急線、安全と利便性の両立へ:436億円投資の全貌と「複々線化」の難題
ニュース要約: 小田急電鉄は、過去の教訓から安全対策を抜本的に強化。2025年度末までに全通勤車両への防犯カメラ導入を目指し、総額436億円を投じる。一方、登戸以遠の複々線化は進捗が遅れており、輸送需要の変化を見据えた戦略的なインフラ整備が課題となっている。
小田急線、安全と利便性の両立へ:複々線化の「壁」と436億円投資の行方
【新宿発】 2025年11月21日現在、首都圏の大動脈である小田急線は、秋の行楽シーズンを迎え、大きな運行障害なく平常運転を続けている。しかし、その裏側で、小田急電鉄は過去の教訓を活かした安全対策の抜本的強化と、長年の懸案である輸送力増強――複々線化事業――の難題に直面している。同社は今年度、安全対策とサービス向上に436億円を投じる計画であり、利用者の安心と利便性の両立に向けた戦略的な岐路に立たされている。
1. 過去の事件を教訓に:防犯カメラの全車両導入へ
小田急線が現在、最も注力しているのが「安全対策の強化」である。過去に発生した車内傷害事件を受け、利用者が安心して乗車できる環境整備は喫緊の課題となっている。
同社の計画によると、2025年度末までに、計画された全ての通勤車両への防犯カメラ設置が完了する見込みだ。これにより、車内の監視体制は飛躍的に向上する。単なる録画機能に留まらず、遠隔地の運輸司令所などでリアルタイムに映像を確認できる高度なシステムを導入。これにより、緊急事態発生時の迅速な状況把握と対応が可能となる。
また、ハード面でも安全投資は続く。転落事故防止のためのホームドア整備の推進に加え、運転士の体調急変に対応するEB装置(運転士異常時列車停止装置)の導入、全踏切への踏切支障報知装置の設置など、多角的な対策が展開されている。「日本一安全な鉄道をめざす」との理念の下、総額436億円を投じることで、ソフト・ハード両面から防災・防犯体制を構築し、利用者の安心感向上に直結する施策を進めている。
2. 遅滞する複々線化:登戸以遠の「壁」
小田急線の利便性を飛躍的に高めた複々線化事業は、代々木上原から登戸までの区間が完了し、朝夕のラッシュ時の混雑緩和や所要時間短縮に大きく貢献した。しかし、残る登戸から向ヶ丘遊園の区間は現在、暫定的な3線運用となっており、全面的な複々線化工事は足踏み状態にある。
当初、同社は2030年度を完成目標としていたものの、川崎市の土地区画整理事業との調整や、用地確保の難しさから進捗は限定的だ。さらに、近年は沿線人口の減少や輸送人員の低下を背景に、小田急電鉄は登戸以遠の複々線化について「実現性が低い」との見解を示しており、国や自治体からの要望に対し慎重な姿勢を崩していない。
複々線化が完了した2018年の大規模ダイヤ改正以降、利便性は向上したが、輸送需要の変化を見据えた戦略的な見直しが今後も求められる。今後、人口減少を背景とした輸送力の適切な調整と、新型車両「5000形」の導入や鶴川駅・藤沢駅などの駅舎改良工事を通じたサービス向上の両立が、同社の経営戦略の鍵となる。
3. 紅葉シーズンと地域経済への貢献
運行情報が平常を保つ中、小田急線沿線は今、紅葉シーズンの最盛期を迎え、観光客で賑わいを見せている。特に、都心からのアクセスが良い箱根エリアは、芦ノ湖や箱根ロープウェイからの眺望が国内外の観光客から高い人気を集めている。
中でも注目されるのが、小田急線でアクセス可能な大山エリアである。大山は沿線屈指の紅葉スポットとして知られ、現在、紅葉ライトアップが実施されている。2025年11月21日から30日までの期間、大山ケーブルカーは夜景運転として延長営業を行っており、利用者はケーブルカーの車窓から、夜の闇に浮かび上がる幻想的な紅葉を満喫できる。
同社は、丹沢・大山フリーパスなどの企画乗車券を提供することで、観光客の誘致と地域経済の活性化に貢献している。天候が不安定になりがちな11月下旬においては、出発前に小田急アプリや公式サイトで最新の運行情報を随時確認することが推奨されており、安定輸送の維持が地域貢献の前提となる。
小田急線は、安全への徹底的な投資と、輸送需要の変化に対応した戦略的なインフラ整備という、二つの大きな課題に挑んでいる。2030年度に向けた目標達成の道筋は険しいが、利用者の安心と利便性を高めるための努力が続いている。(了)