万博成功とIR時代へ:大阪メトロ「脱・鉄道」成長戦略の結実と多角化収益2360億円の衝撃
ニュース要約: 大阪メトロは万博輸送(夢洲駅利用者4000万人)を成功させ、民営化後の「脱・鉄道」成長戦略の真価を証明した。2025年度は特需により収益2,360億円を見込む。今後はIR開業に向けたアクセス多ルート化の検討が進むとともに、不動産やデジタルサービスを軸とした持続的な収益源の確立が焦点となる。
「万博」成功の基盤、そして「IR」へ:大阪メトロが示す「脱・鉄道」成長戦略の真価
夢洲延伸が支えた万博輸送、次の焦点はIRと多ルート化
2025年11月21日、大阪・関西万博の閉幕から約1ヶ月が経過した今、その成功を支えたインフラ、大阪メトロ中央線延伸プロジェクトの功績が改めて評価されている。
大阪メトロは、万博開催地である夢洲への「唯一の鉄道ルート」として、2025年1月19日に中央線(コスモスクエア駅~夢洲駅間)の延伸部3.2kmを予定通り開業させた。万博会期中(4月13日~10月13日)の夢洲駅の利用者数は速報値で4000万人に達し、1日平均約22万人の輸送を担った。これは、万博来場者の約41%がこの路線を利用するという当初の見込みを大きく上回る実績であり、都市交通インフラとしての重要性を証明した形だ。
しかし、万博輸送の成功は通過点に過ぎない。大阪市と大阪府は、万博後の統合型リゾート(IR)開業を見据え、交通インフラの持続的な強化を急いでいる。現在、アクセスは中央線による南側ルートに集中しているが、2025年8月には「夢洲アクセス鉄道に関する検討資料」が公表され、JR桜島線や京阪中之島線の延伸構想など、北側からの多ルート化の政策判断が注目されている。万博期間中に編成数(6両)の限界が指摘されたこともあり、将来的な需要増に対応するための輸送力強化は喫緊の課題となっている。
民営化戦略の結実:2025年度業績と「脱鉄道」の追求
大阪メトロの注目すべき点は、単なる万博輸送の成功に留まらない、2018年の民営化以降推進してきた経営戦略の成果だろう。同社は、沿線人口の減少という構造的な課題に対応するため、鉄道事業に依存しない「多角化経営」、すなわち「脱・鉄道」を戦略の柱としてきた。
2025年度は中期経営計画(2018~2025年度)の最終年度にあたり、万博特需がその業績を大きく押し上げている。2025年5月に発表された事業計画によると、2025年度の営業収益は前期比16%増の2,360億円、営業利益は435億円、純利益は294億円を見込む。
この高収益は、鉄道事業の堅調さに加え、不動産開発、商業施設展開、そしてデジタルサービスへの積極的な投資が寄与している。中期経営計画では、鉄道以外の事業利益の比率を2024年度までに33%に拡大することを目指しており、目標達成は射程圏内にある。都市型MaaS構想「e METRO」の基盤形成も進み、従来の地下鉄事業者が、都市全体の利便性を高める総合インフラ事業者へと変貌を遂げつつあることが窺える。
利用者サービスの進化と課題:混雑予測と運行体制
利用者サービスの面でも、大阪メトロはデジタル技術を活用した進化を遂げている。2025年7月31日からは、全路線の列車混雑予測情報をe METROアプリと公式ホームページにて提供開始した。これは、万博期間中の混雑回避に役立っただけでなく、日常的な通勤・通学時間帯においても、利用者が天気予報のように混雑状況を事前に把握し、快適な移動計画を立てることを可能にしている。
一方で、年末年始の運行体制については、首都圏の地下鉄と同様に、大晦日から元旦にかけての終夜運転は実施しない方針を継続している。これは、終夜運転を実施する近畿日本鉄道や京阪電気鉄道などの関西の私鉄大手とは一線を画す対応であり、年越しイベントや初詣での利用を予定している市民に対しては、事前のダイヤ確認が引き続き求められる。
大阪メトロは、万博という巨大イベントを乗り越え、民営化の真価を証明した。今後は、IR開業に向けたアクセス強化、そして「脱・鉄道」による持続的な収益源の確立が、次の成長フェーズの鍵となる。大阪の経済を牽引するインフラとして、その動向は今後も大きな注目を集め続けるだろう。