マクドナルド冬の戦略:値上げ後の「グラコロ」発売で掴む、消費者の「価値」志向
ニュース要約: 日本マクドナルドは、原材料費高騰と相次ぐ値上げの中、冬の定番「グラコロ」を発売。新作「コク旨ビーフデミグラコロ」や割引キャンペーン「トクニナルド」を展開し、集客を図る。価格改定を経ても売上は増加しており、消費者が「価格」から「品質やブランドの信頼性」といった「価値」を重視するメリハリ消費にシフトしていることが示唆される。
【深度解説】「マクドナルド」冬の戦略:値上げとコスト高を乗り越え、定番「グラコロ」で掴む消費者心理の変容
定番「マック」の冬支度、集客の鍵は「価値」と「お得感」の両立
2025年11月24日
日本マクドナルドホールディングス(HD)は、今年も冬の定番商品「グラコロ®」シリーズを11月26日より期間限定で発売する。33年目を迎える冬の風物詩は、厳しい原材料費の高騰と相次ぐ価格改定を経た同社の集客戦略において、重要な役割を担う。円安や人件費の上昇が経営を圧迫する中、「マクドナルド」は、単なる安さではなく、限定メニューやキャンペーンによる「価値」と「お得感」を両輪とし、消費者の変化した価値観に対応しようとしている。
冬季限定メニューの訴求力と「トクニナルド」戦略
今年の冬季限定メニューの目玉は、定番の「グラコロ®」に加え、ビーフシチュー風のデミグラスソースを採用した新作「コク旨ビーフデミグラコロ」だ。このシリーズは毎年SNSやニュースメディアで大きな話題となり、冬季の客足牽引役となっている。
同時に展開されているのが、チキンマックナゲット15ピースを通常価格から250円引きの特別価格490円で提供する「トクニナルドキャンペーン」だ。また、サイドメニューでは「シャカシャカポテト® ローストガーリックバター味」を投入し、ポテトファンなど幅広い層にアピールしている。
専門家は、こうした戦略を「メリハリ消費への対応」と分析する。2025年3月の価格改定により、ハンバーガーが190円、ビッグマックが690円となるなど、ファストフード業界全体の価格帯が上昇した。そのため、消費者は日常的な利用を抑えつつも、限定商品や特別価格キャンペーンなど「お得感」が明確な機会には積極的に消費する傾向が強まっている。
価格改定後の客足動向:消費者は「価格」より「価値」を重視
マクドナルドは、エネルギーコスト、物流費、そして円安による輸入食材価格の高騰を背景に、2025年に入り主要商品の約4割で値上げを実施した。しかし、興味深いことに、価格改定後も同社の売上は増加傾向を維持している。
これは、消費者の意識が「デフレ時代の安さ」から、「価格に見合う品質やサービス、そしてブランドの信頼性」へとシフトしていることを示唆している。同社は、値上げによる客離れを防ぐため、500円台で購入できるセットメニューの導入や、サステナブルな取り組みの強化など、「価格以外の価値」の提供に注力してきた。
一部には「これなら競合他社へ」といった不満の声もあるものの、多くの消費者は「マック」の品質、メニューの多様性、そして手軽さに依然として高い満足度を示している。原材料調達における倫理的・環境的配慮や、モバイルオーダーなどのデジタル技術(DX)を活用した利便性の向上も、ブランドへの信頼性を高める要因となっている。
サプライチェーンの徹底管理と経営努力
同社の経営努力は、店頭の価格戦略だけに留まらない。グローバルな調達体制を敷く「マクドナルド」は、世界的なサプライチェーンのリスクやコスト高に常に直面している。特に食材価格高騰の影響は大きく、2022年には原材料費比率(F率)が40%近くまで上昇し、経営を圧迫した。
これに対し同社は、安定供給とコスト効率の両立を目指し、戦略的な経営努力を続けている。具体的には、国内外250カ所のサプライヤーと連携し、リスクを分散。また、トレーサビリティを確立し、原材料の調達先までさかのぼって監査を徹底することで、品質管理を強化している。
さらに、デジタル技術への投資は、人件費の上昇を抑制する上で不可欠だ。モバイルオーダーシステムの導入などにより、店舗オペレーションの生産性向上を図り、FL比率(原材料費+人件費)をコントロールしている。2023年にはこれらの努力が実を結び、F率を38.1%程度まで改善させることに成功した。
持続可能な成長を目指す「マック」の未来像
「マクドナルド」は、定番の「グラコロ®」を軸とした集客力と、価格改定後も支持されるブランド力を背景に、厳しい外部環境への対応を進めている。
グローバル調達によるコスト管理、DXによる効率化、そしてサステナビリティへの配慮は、同社が目指す「持続可能なビジネスモデル」の柱だ。消費者が「マック」に求める価値が、単なるハンバーガーの価格ではなくなりつつある今、限定メニューの訴求力と、安定した品質・サービスの提供が、今後の成長を左右する鍵となるだろう。