キオクシア株暴落の衝撃:AI期待の崩壊と「不適切会計」疑惑が日本のメモリー巨人を揺るがす
ニュース要約: キオクシア株が23%超の大幅安を記録。第2四半期決算に加え、「不適切会計の疑い」を理由とした純利益予想の取り下げと配当未定化が経営信頼を揺るがした。AI需要で膨らんだ期待バブルが崩壊し、NAND市場でのシェア低下という構造的な競争課題が日本のメモリー産業の未来に影を落としている。
キオクシア暴落の深層:AI期待と「不適切会計」の波紋、日本のメモリー巨人はどこへ向かうのか
2025年11月14日、東京株式市場で、日本のメモリー産業を牽引するキオクシアホールディングス(285A)の株価が急落した。前日終値から23.03%もの大幅安を記録し、私設取引システム(PTS)では一時20%を超える下落率を示すなど、市場の動揺は深刻だ。
この暴落は、13日の取引終了後に発表された2026年3月期第2四半期累計決算の内容を市場が「嫌気」した結果である。特に投資家の不安を煽ったのは、短期的な業績不振のみならず、**「不適切会計の疑いに関する第三者委員会の調査状況」**を理由とした純利益予想(従来2,000億円)の取り下げ、そして期末配当の修正(未定化)という、経営の信頼性に直結するネガティブな要因だった。
期待バブルの崩壊:AI需要との乖離
今回の急落が注目を集めるのは、キオクシア株価がこの数ヶ月間で「異常な熱狂」の中にあったためだ。2024年12月の再上場を果たした後、株価は低迷していたものの、2025年秋口にかけてAI向けメモリー需要の爆発的な増加期待を背景に、株価は一時約3倍近くまで急騰。PBR(株価純資産倍率)は5倍近くにまで達していた。
韓国のサムスンやSKハイニックスがDRAMやNAND価格の大幅引き上げを計画しているとの報道が重なり、キオクシア株は「AIブームに乗る日本の技術優位企業」として投機的な買いを集めていたのである。
しかし、今回の決算は、足元の業績が市場の行き過ぎた期待に応えられていない現実を突きつけた。短期的な業績不振、そして将来的な収益予測を取り下げざるを得ない経営上の透明性の問題が露呈したことで、AI期待で膨らんでいた「期待バブル」が一気に弾ける形となった。
激化するNAND競争と日本の課題
キオクシアの苦境は、短期的な会計問題だけに留まらない。NANDフラッシュ市場全体に目を向けると、AIやデータセンター需要の拡大により、2025年第2四半期のNAND市場全体の売上は前年同期比で大幅に伸びており、活況を呈している。
しかし、この成長の恩恵を最も受けているのは、積極的な設備投資と次世代NANDの量産に邁進するサムスン(シェア約32.9%)やSKグループ(21%台)といった競合他社である。
対照的に、キオクシアの市場シェアは、2024年の17.3%から2025年第2四半期には13%台へと徐々に低下している。これは、同社が競合に比べて慎重な投資姿勢を続けてきた結果と見られている。NAND市場は技術革新と規模の経済が勝敗を分ける領域であり、日本のメモリー巨人が競争優位性を維持するためには、抜本的な戦略の見直しが求められる。
長期的な技術優位性への期待は残るか
市場の厳しい評価が続く一方で、キオクシアの長期的な技術力への期待は根強く残っている。同社は長期記憶型メモリーにおける技術的優位性を持ち、特にAIサーバー向けeSSD(組み込みSSD)などの成長分野への注力を進めている。四日市工場と北上工場での生産能力増強計画も、中長期的な成長の鍵と位置づけられている。
アナリストの中には、足元の株価を適正価格と見て「中立」の投資判断を下す声が多い。これは、短期の業績変動リスクと、長期的なAIインフラ需要というポジティブな外部環境が相殺し合っている現状を示す。
しかし、2024年12月の再上場時の想定時価総額が当初目標の半分程度に留まった経緯や、今回の不適切会計疑惑が示すガバナンスへの懸念は、投資家心理に深い影を落としている。
日本の半導体戦略において、キオクシアは不可欠な存在である。短期的な株価の激しい乱高下は、同社が「足元の構造的な競争課題」と「将来のAI需要への期待」という二律背反の狭間で激しく揺れ動いている現実を象徴していると言えよう。キオクシアが市場の信頼を回復し、再び技術と規模の両輪で世界の頂点を目指せるかどうかが、今、問われている。(958文字)