山本圭 没後3年で再評価加速：日本映画史に刻まれた「知性のレガシー」

山本圭、没後3年で再評価の機運　日本映画史に深く刻まれた「知性のレガシー」

【2025年11月28日 共同通信】

2022年に82歳で逝去した名優、山本圭氏の功績を再評価する動きが、没後3年を迎え、にわかに高まっている。彼の長きにわたるキャリアは、1960年代の社会派映画の勃興期から現代に至る日本映画の変遷そのものを体現しており、特に知的な風貌と内省的な演技で、数多くの重要作品を支えた。特集上映の企画や、演劇界における彼の功績を振り返るシンポジウムなどが各地で検討されており、その「レガシー」の深さが改めて注目されている。

社会の矛盾に切り込んだ初期の輝き

山本圭氏は1940年生まれ。1960年代の映画界において、若者の苦悩や社会との葛藤を描く作品で頭角を現した。『氷点』（1966年）での熱演は初期の代表作として知られるが、彼のパブリックイメージを決定づけたのは、青春群像劇の金字塔『若者たち』（1968年）における三男・佐藤三郎役である。

この作品で彼は、社会の底辺で懸命に生きる若者の姿を、派手さではなく、内面に秘めた強さと繊細さをもって表現しきった。この演技は高く評価され、第22回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。以降、山本氏は単なる二枚目俳優としてではなく、作品の思想性や重厚感を担う実力派俳優としての地位を確固たるものとした。

社会派映画の「顔」としての重責

山本氏のキャリアにおいて特筆すべきは、叔父にあたる山本薩夫監督作品をはじめとする、社会派映画への多大な貢献である。彼は『戦争と人間』シリーズ第2部（1971年）や『小林多喜二』など、政治的・社会的なテーマを深く掘り下げる作品に積極的に参加した。

これらの作品群において、山本圭氏の存在は、単なる脇役という枠を超え、物語の倫理観や歴史的視点を観客に伝える重要な役割を果たした。彼の知性的な佇まいは、権力や社会の矛盾を冷静に見つめるキャラクターに説得力を与え、日本映画史に残る「社会派映画」の質の高さを支え続けたと言える。

一方で、彼の演技の幅は広大であった。『人斬り』（1969年）のような時代劇から、『新幹線大爆破』（1975年）といった娯楽大作まで、ジャンルを問わず出演。特に『新幹線大爆破』では、高倉健氏らオールスターキャストの中で確かな存在感を放ち、サスペンス映画の金字塔に貢献した。

舞台との相乗効果が生んだ深み

山本氏の俳優としての深みは、映画界のみならず、舞台活動にも裏打ちされている。彼は無名塾など演劇集団にも参加し、『マクベス』や『リチャード三世』といったシェイクスピア作品の日本語上演に尽力した。この舞台経験で培われた発声や表現力、肉体的なタフさが、映画やテレビドラマにおける彼の演技に、一層の重厚感をもたらした。

2000年代以降もその円熟した演技は衰えることなく、『アフタースクール』（2008年）や『SP 野望篇・革命篇』（2010年、2011年）といった現代作品においても、ベテラン俳優としての圧倒的な存在感を示し続けた。

後進に継承される真摯な姿勢

山本圭氏が若手俳優たちに残した「レガシー」は、その真摯な役作りへの姿勢にある。彼は「役がふられたから演じただけ」と謙遜する一方、与えられた役柄に対し、内面的な葛藤や知性を深く掘り下げて表現した。派手な技巧に頼らず、内面の強さや知性を表現する彼のスタイルは、多くの後進にとって「実力派俳優のモデル」として尊敬を集めている。

彼の出演作品の特集上映は、1960年代から現代に至る日本映画の歴史的変遷を辿る貴重な機会となる。社会と向き合い続けた山本圭氏の作品群は、現代社会においてもなお、普遍的な問いを投げかけ続けている。没後3年を経た今、彼の知的な演技と、日本映画界に与えた多大な影響を再検証する動きは、今後ますます加速していくと見られる。（了）