【造幣局】午年・万博記念貨幣市場が急騰：伝統技術が支える収集ブームとプレミア価格の行方

飛躍の「午年」へ、記念貨幣市場が活況：造幣局の伝統技術と万博コインの行方

（2025年11月26日 日本経済新聞、共同通信社）

貨幣収集市場が今、新たな活況を呈している。特に記念硬貨や干支をモチーフとした特殊貨幣への需要は高まる一方だ。2026年の干支である「午年」をテーマとした貨幣セットの予約販売は既に終了し、高額な限定商品は早期完売が相次いだ。また、2025年大阪・関西万博を記念する貨幣シリーズも最終段階を迎え、造幣局が担う伝統的な職人技と、現代の投資・収集トレンドが交差する様相を見せている。

2026年「午年」コイン、海外勢が主導する収集家トレンド

干支貨幣は、その年の縁起物として、一般の収集家だけでなく贈答品としても高い人気を誇る。2026年の「午年」は「飛躍」や「成功」を象徴するとして、特に注目度が高い。

今回の「午年馬図記念コイン」は、泰星コイン株式会社が主催し、英国王立造幣局やオーストラリア・パース造幣局など、海外5カ国の高品質な記念コインがラインナップされた。予約販売は10月24日で締め切られたが、特に限定枚数の少ない高額金貨（例：500ユーロ金貨、500ポンド金貨）は、予約開始直後に完売するケースが目立った。

すべてプルーフ仕様で発行され、造幣局特製ケースと発行証明書が付くこれらの海外コインは、収集家にとって必須アイテムとなっている。国内の造幣局も、干支をテーマとしたメダルや貨幣セットを12月以降に予定しているが、人気商品の抽選販売は例年、高い倍率となる傾向にあり、例えば過去には人気アニメをテーマとした貨幣セットが8倍以上の当選倍率を記録するなど、入手難易度は高止まりしている。市場においては、予約販売終了後、限定商品がオークション市場や中古市場でプレミア価格で取引される可能性も指摘されており、今後の市場動向が注目される。

万博記念硬貨、最終シリーズの希少性分析

一方、2025年大阪・関西万博を記念する硬貨シリーズは、現在、シリーズ最後となる第三次発行が完了間近だ。この最終シリーズでは、極めて希少性の高い一万円金貨幣と千円銀貨幣が発行された。

特に注目されるのが、シリーズを通して唯一かつ最後に発行される一万円金貨幣である。発行枚数はわずか30,000枚に限定され、販売価格は344,000円。デザインには万博公式キャラクターのミャクミャクが描かれている。

現在のところ、万博記念硬貨全体として大きなプレミア価値は付いていない状況だが、一万円金貨幣については、金相場の上昇により、既に販売価格を超える素材価値を内包している。記念硬貨の価値は、発行枚数、デザインの人気、そして素材の価値によって決まるため、将来的にコンプリートセットなど希少な組み合わせで保有されている場合、専門業者による適正な査定が期待できる。

千円銀貨幣については、既に通信販売の申込受付が終了しているものの、一部では先着順での再受付が行われるなど、造幣局は国民の要望に応える形で対応を進めている。

造幣局が守り継ぐ、勲章製造の精緻な伝統技術

造幣局の役割は、記念貨幣の発行や流通貨幣の製造に留まらない。国家や社会に功労のあった人々に授与される勲章・褒章の製造も、造幣局の重要な使命の一つである。

造幣局が製造する勲章は、最高位の「大勲位菊花章頸飾」をはじめ、純銀製の板をプレス機で打ち抜いた後、熟練の職人による精緻な手作業が加えられる。特に複雑な意匠部分は、職人が糸鋸を用いて丁寧に切り抜き、形状を整える。

この製造工程で不可欠なのが、伝統的な七宝焼き（エナメル技術）だ。電気炉で焼き付けて色彩を定着させ、完成後は研磨剤をつけたバフで磨き上げられる。金メッキが必要な部分にはマスキング処理が施され、各部品は厳密な検査を経て一つ一つ丁寧に組み立てられる。

造幣局さいたま支局では、この貨幣製造技術をベースにした勲章の繊細な手作業を見学できる工場見学も実施されており、明治時代から継承される日本の伝統技術と、現代の精密技術が融合した職人技の迫力を肌で感じることができる。

造幣局は、国家の栄誉を象徴する勲章の製造と、国民の記念となる貨幣の発行という二つの重要な側面から、日本の社会と文化を支え続けている。記念貨幣市場の活況は、その技術と信頼の証左と言えるだろう。