【深層分析】イマーシブ・フォート東京 開業2年：USJと一線を画す「没入」戦略と経済効果

【深層探訪】「イマーシブ・フォート東京」開業2年、集客動向と経済効果：USJ・ディズニーと一線を画す「没入」戦略の現在地

（2025年11月29日付け 日本経済新聞／文化・エンタメ欄）

2024年3月、東京お台場の旧ヴィーナスフォート跡地に誕生した「イマーシブ・フォート東京」は、世界初のイマーシブ体験専門テーマパークとして、日本のエンターテイメント市場に新たな風を吹き込んだ。従来のテーマパークが提供する受動的な体験とは異なり、観客自身が物語の登場人物となって没入する革新的なスタイルは、特に若年層を中心に熱狂的な支持を集めている。

開業から約2年半が経過し、同施設は2025年冬を迎え、新たなコンテンツ展開と集客戦略の成果が顕著になっている。本稿では、最新アトラクションの反響、集客実績、そして巨大競合施設との差別化戦略を分析する。

待望の新作「フォルテヴィータの追憶」が牽引する熱狂

2025年11月17日より、新たな目玉コンテンツとして「フォルテヴィータの追憶」が幕を開けた。これは、過去に人気を博した「フォルテヴィータ事件簿」の復活作であり、マフィアや踊り子、軍人など個性豊かなキャラクターが織りなす90分間の体験型エンターテイメントショーだ。

特筆すべきは、その高い希少性である。この新作は平日の19:30からの一日一公演という限定的な開催形式を採用しており、結果としてチケット争奪戦は激化している。初日チケットは販売開始からわずか1分で完売したとされ、体験の限定性を高めることで、顧客の期待値と満足度を極限まで引き上げる戦略が成功していることが窺える。

現在、施設内ではこの最新作に加え、「ザ・シャーロック～ジェームズ・モリアーティの逆襲」や「江戸花魁奇譚」、「東京リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」など、多様なテーマの没入体験アトラクションが展開されており、来場者層の拡大に寄与している。

開業2年後の集客実績と地域経済への波及効果

施設運営の現状を見ると、イマーシブ・フォート東京の年間動員数は約36万～62万人程度で推移している。日次の集客実績は、平日で約1,000人、土日で約1,700人となっており、損益分岐点とされる1,600人/日を平日は下回る状況が続いている。

しかし、経営面では、マーケティングのプロフェッショナルである森岡毅氏の戦略により、客単価向上に成功している点が注目される。客単価は2桁増を達成し、施設内経済は安定している。

さらに、地域経済への経済効果も期待以上だ。都心立地という利便性を活かし、お台場・ヴィーナスフォート跡地の活性化に貢献している。NTTグループとのデータ連携によるプロモーションでは、来場者の消費行動を活用し、施設周辺地域の消費が2倍に増加した事例も報告されており、広範な産業への波及効果を示している。

競合との差別化：小規模・高品質戦略の独自性

イマーシブ・フォート東京は、年間動員数数千万規模を誇るUSJや東京ディズニーリゾートといった巨大テーマパークとは一線を画す「小規模・高品質戦略」を採っている。

巨大テーマパークが「大規模・多様なコンテンツ」で広範な層を集めるのに対し、当施設は「革新的な没入体験」に特化している。来場者は単なる観客ではなく、物語の当事者として積極的に関与し、その行動が体験内容に影響を与えるという「完全な当事者意識」が、最大の差別化ポイントだ。

7割のユーザーが「没入できた」と評価する高い満足度は、施設全体（約3万平米）を舞台とする予測不可能なライブ演出と、一流の役者陣による熱演によって支えられている。これにより、大規模施設では難しい「百人百様の個別体験」を実現している。

今後の課題と展望

質の高い体験を提供し続けるイマーシブ・フォート東京だが、今後の成長にはいくつかの課題が残る。

第一に、全国的な認知度向上である。都心での利便性は高いものの、地方からの集客をさらに伸ばすためには、広範な広報・プロモーションが不可欠だ。第二に、平日の集客不足解消である。年間動員数を安定的に伸ばすため、体験の多様化とリピーター層の拡大が鍵となる。

冬の観光シーズンを迎え、特に「フォルテヴィータの追憶」のような人気アトラクションは混雑が予想される。訪問を予定する際は、事前のチケット購入と、ザ・シャーロックのような体験型アトラクションに備えた動きやすい服装・軽装が推奨される。

革新的なエンターテイメントとして市場を牽引するイマーシブ・フォート東京は、今後もアジャイルな運営とデータ活用を武器に、日本のエンタメ界における新たな価値創造のフロンティアを切り開き続けるだろう。