【富山県の挑戦】豊漁の裏側で進む資源管理と豪雪対応デジタル戦略

【富山県の現在地】豊漁と豪雪、そして未来への挑戦—地域創生を支えるデジタル化と資源管理

（2025年11月25日 富山発）

晩秋を迎え、富山県は豊かな海の恵みと、豪雪地帯としての厳しい冬の準備という、二つの大きな局面に立たされている。日本海に面した富山湾では、旬の味覚「寒ブリ」のシーズンが本格化する一方、内陸部では冬期の交通確保に向けた除雪体制が強化されている。若者の県外流出という構造的な課題に直面しながらも、富山は伝統的な産業と最新のデジタル技術を融合させ、「持続可能な地域」への変革を静かに進めている。

記録的豊漁「ひみ寒ぶり」の安定供給と資源管理の転換

富山湾の冬の風物詩である「ひみ寒ぶり」は、今シーズン（2024年11月〜2025年1月）に記録的な豊漁を達成した。水揚げ本数は69,351本と、ブランド化以降で2番目の多さとなり、11年ぶりに6万本を超える大漁となった。定置網漁で獲られた7kg以上の大型魚が中心であったため、品質も極めて良好だったという。過去数年、不漁による市場価格の高騰が続いていたが、この豊漁により、価格は比較的安定し、地元では「気軽に楽しめる価格」で流通した。

しかし、豊漁の裏側で、水産資源の持続可能性への意識も高まっている。2025年4月からはブリに対し、国の**TAC管理（漁獲総量規制）**がステップ1として導入された。漁場が北上傾向にあるなど、気候変動の影響も懸念される中、富山県は水産研究機関と連携し、回遊ルートや生息資源量の調査を強化している。豊漁の恩恵を享受しつつも、未来を見据えた資源保護への転換期を迎えている。

豪雪地帯の宿命に挑む：デジタル化された除雪戦略

富山県は、県内全域が「豪雪地帯対策特別措置法」の対象区域に指定されている、日本有数の多雪地域である。本格的な降雪期を前に、県は今年度、除雪機械を741台に増強し、除雪対象道路約2,300kmの安全確保を急いでいる。特筆すべきは、デジタル技術を活用した情報提供の強化だ。2025年シーズンから新たに「除雪作業マップ」を県公式サイトで公開。住民や事業者は、リアルタイムで除雪の進捗状況を確認できるようになった。

また、道路監視カメラを7基追加増設することで、災害級の大雪発生時における交通状況や交通規制の把握を迅速化している。県は、大雪特別警報発表時には、県民・事業者に対し不要不急の外出自粛を強く呼びかけるなど、過去の教訓（56豪雪や59豪雪など）に基づいた機動的な対応体制を敷いている。地域住民や除雪業者、ボランティアとの連携を推進し、富山県は「地域ぐるみの除排雪体制」で冬の安全を支えている。

未来への投資：若者定住と立山黒部観光戦略

持続可能な地域づくりには、若者の定住が不可欠だ。特に20〜24歳の女性の転出超過が深刻な富山県は、従来の引き留め策から一歩進んだ戦略を展開している。「I'm Your Home.富山県」プロジェクトは、県外に出る若者を「応援する」という斬新な視点を取り入れ、将来的なUターンや関係人口の創出を目指している。

さらに、**「第2期とやま未来創生戦略」**に基づき、若者向けの住居支援や就農支援、県内ものづくり産業への雇用創出を強化。南砺市などでは、地方銀行と連携した若者応援パッケージを導入し、若者流出に歯止めをかけようと必死だ。

一方、観光面では、立山黒部アルペンルートが晩秋から初冬にかけての「季節の移ろい」を強くアピールしている。11月上旬の壮大な紅葉から、中旬以降に広がる銀世界（雪景色）へと変化する景観を売りに、国内外からの誘客を図る。室堂平や黒部ダム周辺では、雪遊びや雪景色の写真スポットを紹介するなど、季節に応じた観光戦略を展開。観光戦略においても、富山県の豊かな自然と、地域創生の取り組みが一体となり、未来志向の地域づくりが進行している。

これらの取り組みは、単なる地方対策に留まらず、日本全体が直面する人口減少と気候変動への対応モデルとして、大きな注目を集めている。富山県は、伝統と革新を両立させながら、持続可能な発展を目指す。（了）