東京メトロ、2030年代へ巨額投資:新線延伸とホームドア完了で「安全と拡張」を両立
ニュース要約: 東京メトロは2030年代に向け、有楽町線(豊住線)と南北線の延伸工事を本格着工した。東西線の混雑緩和策や全駅ホームドア設置など安全対策にも巨額を投じる。この大規模投資は一部運賃の値上げによって支えられ、利便性と安全性の向上を目指す。
首都圏大動脈の未来図:「拡張」と「安全」に巨額投資、東京メトロが描く2030年代
【東京】(2025年11月26日、本社取材)
首都圏の交通インフラを支える東京メトロは、2030年代の都市機能強化を見据え、大規模なネットワーク拡張と既存設備の安全対策に巨額の投資を集中させている。特に、長年の懸案であった新線延伸プロジェクトが本格的に動き出したほか、利用者にとって切実な課題である混雑緩和とセキュリティ強化にも技術と資金を投じる。一方で、これらの投資を支えるため、2025年春には一部乗車券や定期券の実質的な値上げに踏み切っており、都市交通の「質」の向上と利用者負担のバランスが問われている。
悲願の新線延伸が本格着工
東京メトロが現在推進する二大プロジェクト、有楽町線延伸(豊住線)と南北線延伸は、本年11月5日に相次いで工事に着手した。これは、2021年7月の交通政策審議会答申で早期の事業化が求められた重要路線であり、首都圏の地下鉄ネットワークを大きく変貌させる可能性を秘めている。
有楽町線延伸(豊住線)は、豊洲駅から東陽町駅を経由し、住吉駅に至る約4.8kmの区間を整備する。総建設費は約2,690億円に上り、2030年代半ばの開業を目指す。この新線は、国際競争力の強化拠点である臨海副都心と、都区部東部の観光拠点とのアクセスを劇的に改善する。また、慢性的な混雑に悩まされてきた東京メトロ東西線の混雑緩和にも大きく貢献すると期待されている。
同時に、南北線は白金高輪駅から品川駅までの約2.5kmの延伸工事に着手した。こちらも2030年代半ばの開業を目指し、南北線と東急目黒線方面から、リニア中央新幹線開業を控える品川ターミナルへのアクセスを確立する。
これらの新線建設は、東京メトロの中期経営計画(2025~2027年度)における投資の柱であり、首都圏の広域移動の利便性向上と、都市の国際競争力強化に不可欠なインフラ整備として位置づけられている。
混雑との闘い:東西線改良と技術活用
新線建設と並行し、東京メトロは既存路線の輸送力強化にも力を注ぐ。特に混雑が激しい東西線では、大規模な駅改良工事が計画的に進められている。木場駅では2025年度にホームとコンコースの拡幅が予定されており、利用者の流れを分散させ混雑緩和を図る。さらに、南砂町駅では2027年度までにホーム1面と線路1線を増設し、2面3線とすることで、列車の交互発着を可能にし、遅延防止とホーム上の混雑緩和を実現する方針だ。
また、技術を活用した混雑対策も進んでいる。同社の「my!アプリ」では、全路線の号車ごとのリアルタイム混雑状況を配信しており、利用者はこれを参考に分散乗車を促すことが可能となった。このサービスは月間20万回以上利用されており、デジタル技術による利用環境の改善が着実に進んでいる。
安全対策の加速と未来技術の導入
テロ対策や事故防止といった「安全」へのコミットメントも強化されている。東京メトロは、全179駅へのホームドア設置を2025年度末までに完了させる目標を掲げており、計画を前倒しで推進。2024年度末までに設置率は98%に達する見込みだ。これにより、転落事故防止や高齢者・障害者の移動円滑化といったバリアフリー施策が大きく前進する。
さらに、鉄道テロや事件対策として、全路線へのセキュリティカメラ導入計画も前倒しで進められており、監視体制の強化と迅速な事態対応を目指す。
運行技術の革新も重要課題だ。日比谷線では、より高密度な運行を可能にする無線式列車制御システム(CBTC)の導入を2026年度に完了させる予定。また、丸ノ内線では2025年度から営業運転終了後の自動運転実車走行試験を実施するなど、将来的な運行高度化に向けた準備が進められている。
投資を支える運賃戦略と利用者への影響
これらの大規模な設備投資や安全対策を継続的に推進するため、東京メトロは経営戦略を見直している。2025年3月15日より、「東京メトロ24時間券」などの企画乗車券を値上げするほか、3か月・6か月定期券の割引率を引き下げ、実質的な運賃値上げに踏み切る。
同社は、物価高騰や人材確保の難化、安全で安心な輸送サービスの維持に必要な資金確保を値上げの理由としている。この動きは、2026年3月に大規模な運賃改定を予定しているJR東日本など、他鉄道事業者の動向と連動しており、都市交通全体の運賃水準の上昇傾向の一環と見られる。
一方で、コロナ禍以降の多様な働き方に対応するため、従来の定期券を持たなかった利用者層向けに、週数や乗車回数を限定した日数限定定期券の導入・拡大も進めている。東京メトロは、利用者負担の増加を伴いながらも、新線延伸、混雑緩和、そして何よりも安全性の確保という三位一体の戦略で、首都圏の大動脈としての役割を十全に果たす構えだ。(了)