【住友電工】株価高値圏で問われる真価:好決算の裏側にある潜在リスク
ニュース要約: 住友電工(5802)の株価は、情報通信事業の成長とコスト改善を背景とした好決算・上方修正で年初来高値圏を維持している。一方で、グローバルなEV需要の減速懸念や、原材料高騰・物流遅延によるサプライチェーンの不安定さが潜在的な重荷となっている。高値圏を維持するためには、これらの短期リスク管理と、リニアや核融合といった次世代事業の早期収益化が急務となる。
住友電工、高値圏で試される「真価」—好決算の上方修正も、潜在リスクとサプライチェーンの課題
2025年11月18日
住友電気工業(5802)の株価が、足元で年初来高値圏を維持し、市場の注目を集めている。同社は11月上旬に一時的な調整局面で下落を見せたものの、直近では急反発。11月17日の終値は6,533円を記録し、11月4日に付けた年初来高値6,629円に肉薄する水準で推移している。この背景には、11月1日に発表された2026年3月期第2四半期決算の好調さ、そして通期業績予想の上方修正がある。
しかし、その堅調さの裏側には、老舗総合電線メーカーがグローバルなサプライチェーンの激変期に直面する、構造的な課題が潜む。市場は、好業績に沸き立つ一方で、短期的な利益確定売りや、潜在的な事業リスクへの警戒感を拭い去れずにいる。
好決算を支える「情報通信」と「コスト改善」
住友電工が発表した2026年3月期第2四半期決算は、売上高が前年同期比5.6%増の2.37兆円、営業利益が同28.2%増の1,530億円と、大幅な増収増益を達成した。特に、自動車関連事業の堅調さに加え、5Gやデータセンター向けなどが牽引する情報通信関連事業の成長が際立っている。
加えて、この高水準の利益達成を可能にしたのは、徹底したコスト管理と生産性改善の取り組みだ。原材料価格の高騰や海外生産拠点における人件費の上昇といった逆風がある中で、売値改善や効率化施策が奏功し、利益率を押し上げた形だ。この結果を受け、通期予想も上方修正され、親会社株主に帰属する当期純利益は2,300億円(前期比18.7%増)を見込む。
市場が警戒する二つの重荷:EVとサプライチェーン
業績の牽引役である自動車部品・電線事業を巡っては、市場は二つの懸念を抱いている。
一つは、グローバルなEV(電気自動車)需要の減速だ。特に中国や欧州市場におけるEV補助金の縮小や需要の鈍化は、同社の主要顧客である自動車メーカーの減産懸念に直結する。電線やワイヤーハーネスなど自動車部材で高いシェアを持つ住友電工にとって、EV市場の変化は業績の不透明要因となり得る。
もう一つは、依然として不安定なサプライチェーンだ。銅やアルミといった電線・ケーブルの主要原材料価格の高騰が継続しているほか、海外生産拠点での物流遅延や人件費上昇がコストを圧迫し続けている。ベトナムやインドネシアといったアジア圏に加え、中東情勢の緊迫化が物流ルートに与える影響も無視できない。一部のアナリストは、好調な受注が低採算段階で舞い込むことで、かえって利益を押し下げるリスクを指摘しており、サプライチェーンの多様化と在庫管理の強化が急務となっている。
未来を切り拓く成長戦略とIRの課題
住友電工の長期的な成長期待は、リニアモーターカー、パワー半導体、蓄電池、そして核融合発電といった次世代インフラ関連テーマに集約される。特に、日本の巨大プロジェクトであるリニア中央新幹線への貢献や、脱炭素社会の実現に向けた送電・蓄電技術は、同社の将来価値を大きく左右する要素だ。
しかし、好業績にもかかわらず、株価が一時的に「業績と乖離」する局面が見られたことから、投資家向けの情報開示(IR)の強化が求められている。成長分野への具体的な投資戦略や、収益構造の多角化に向けた進捗を明確に発信することで、投資家心理の冷え込みを防ぎ、適正な企業価値評価を促す必要がある。
短期的には利益確定売りによる調整も予想されるが、住友電工が真に高値圏を維持し続けるためには、足元のサプライチェーンリスクを確実に管理しつつ、リニアや核融合といった未来の成長ドライバーを早期に収益化へと結びつける「真価」が問われることになる。