砧公園に響く「つぐ」の旋律:世田谷美術館、ミナ ペルホネン展と開館40周年の展望
ニュース要約: 緑豊かな世田谷美術館で、ミナ ペルホネンの30周年記念展「つぐ」が開催中。時代を超えて愛される服飾とテキスタイルの軌跡を辿り、「継承」の多義性を探る。紅葉に包まれた内井昭蔵氏設計の建物は、来たる開館40周年に向けた地域文化の継承というテーマと共鳴する。
【文化の継承と創造】砧公園に響く「つぐ」の旋律:世田谷美術館、ミナ ペルホネン展と開館40周年の展望
(東京発、2025年11月24日)
東京都世田谷区の緑豊かな砧公園に佇む世田谷美術館は、秋の深まりとともに、ケヤキやイチョウの鮮やかな紅葉に包まれている。建築家内井昭蔵氏が設計したこの「公園美術館」は、自然との調和を追求した低層分散型の建物が特徴であり、この時期、アイボリーの外壁と紅葉の色彩が織りなす景観は、訪れる人々に静謐な美しさを提供している。
現在、この自然と芸術が融合する空間で、ファッション・テキスタイルブランド「ミナ ペルホネン(minä perhonen)」の創設30周年を記念した特別展「つぐ minä perhonen」が開催され、高い注目を集めている(会期:2025年11月22日〜2026年2月1日)。
30年の軌跡を紐解く「つぐ」の多義性
本展は、デザイナー皆川明氏が手掛ける「ミナ ペルホネン」の30年の歩みを象徴するテキスタイル、服飾作品、原画、生活用品など多岐にわたる作品群を一堂に展示している。展覧会のキーワードである「つぐ」には、「継承」のみならず、「告げる」「注ぐ」「つなぐ」といった多様な意味が込められている。
皆川氏が一貫して追求してきたのは、時代を超えて愛される「特別な日常着」の創造である。その根底には、流行に左右されない布地から服を作る独自のものづくり、そして手仕事の丁寧さに対する敬意がある。展示を通じて、一つのテキスタイルが生まれるまでの緻密な思考のプロセスや、職人の技術とデザイナーの想いがどのように未来へと引き継がれていくのかが、深く掘り下げられている。
特に見どころとなっているのは、膨大な数のテキスタイル作品とその原画の展示である。デザイナー田中景子氏が語るように、この展覧会は、単なるブランドの回顧展ではなく、来場者一人ひとりが「自分にとっての『つぐ』とは何か」を内省するきっかけを持ち帰ることを目指しているという。
実際に来場者からは、ブランドの高い人気を裏付けるように、「世界観に感動した」「手仕事の温かさが伝わる」といった共感の声が多く寄せられており、アートやファッションに関心の高い層だけでなく、幅広い世代からの評価を得ている。会期中には、100円ワークショップやライブペインティング(11月24日実施)、トークイベント(12月14日予定)といった体験型イベントも充実しており、五感を通じてブランド哲学に触れる機会が提供されている。
建築が語る「生活空間としての美術館」
「つぐ minä perhonen」展の持つ「継承」のテーマは、世田谷美術館の建築思想そのものとも共鳴する。1985年に竣工したこの美術館は、「生活空間としての美術館」「オープンシステムとしての美術館」「公園美術館としての美術館」という三つのコンセプトに基づき、内井昭蔵氏によって設計された。
低層で分散配置された建物群は、砧公園の広大な自然の中に溶け込むように配置されており、訪問者は屋外階段やブリッジを通り、自然の光や風を感じながら鑑賞することができる。特に、秋の紅葉シーズンは、ケヤキ並木や芝生の広場が鮮やかに色づき、美術館のアイボリー色の外壁や赤・グリーンの屋根が、自然の色彩と心地よく調和する。
この建築美は、芸術を特別なものとして切り離すのではなく、地域の自然や人々の日常に組み込むという、美術館が果たすべき地域文化の核としての役割を視覚的に体現していると言える。
地域文化の「あしあと」と未来への展望
世田谷美術館は、来たる2026年に開館40周年という大きな節目を迎える。これを記念し、美術館の今後の事業計画は、地域文化の継承と美術との接点強化を軸に展開される。
現在、特別展の後に予定されているのが、開館40周年記念コレクション展「世田美のあしあと――暮らしと美術のあいだで」である(会期:2026年2月21日〜4月12日)。この展覧会は、世田谷の地域文化や美術の歴史を振り返り、世田谷の暮らしと美術がどのような関わりを持ってきたのかをテーマとする。
ミナ ペルホネンが「つぐ」という言葉を通じて、技術と想いを未来へつなぐ姿勢を見せるように、世田谷美術館もまた、地域という文化的な土壌を背景に、芸術が人々の生活に深く根ざし、未来へ継承されていくための基盤を固めている。紅葉の美しさに彩られた砧公園の美術館は、過去の歴史を振り返りつつ、新たな40年に向けた創造的なエネルギーに満ちている。