サウジアラビア「ビジョン2030」の深層:NEOM修正と加速する脱石油・社会変革
ニュース要約: サウジアラビアは「ビジョン2030」の下、脱石油を目指す変革を推進。未来都市NEOMの「THE LINE」は計画縮小を余儀なくされたが、リヤドのインフラ整備やグリーン水素開発は進む。イランとの国交回復など外交転換、女性の社会進出など若者主導の社会改革は加速しており、中東の盟主として新たな国家像を模索している。
変革のサウジアラビア、脱石油へ多面的戦略――NEOM計画縮小も社会改革は加速
【リヤド発】サウジアラビアが国家の根幹を揺るがす大胆な変革を推し進めている。ムハンマド皇太子が主導する「ビジョン2030」の下、石油依存からの脱却を目指す同国は、未来都市開発、外交政策の転換、社会規範の刷新という三つの軸で、中東の盟主としての新たな地位を模索している。
象徴的プロジェクトに現実的修正
サウジアラビアの野心的な未来都市開発プロジェクト「NEOM」は、当初計画から大幅な修正を余儀なくされている。26,500平方キロメートルの広大な地域に建設予定の都市のシンボル「THE LINE」は、財政的制約から全長170キロメートル、人口150万人の計画が2030年までに全長2.4キロメートル、人口30万人未満へと大幅に縮小された。
それでもサウジアラビア政府は、2039年までに900万人規模の都市エコシステムを構築する目標を堅持している。産業・物流拠点OXAGONでは港湾施設の整備が進み、2026年にはターミナル1が稼働予定だ。約84億ドルを投じたグリーン水素プロジェクトも進捗率80%に達し、再生可能エネルギー100%を目指す同国の姿勢に変わりはない。
首都リヤドでも「ニュー・ムラッバ」や歴史地区再開発が進行中で、キング・サルマン国際空港の拡張やメトロ路線延伸など、非石油部門の成長を支える都市インフラ整備が加速している。
外交姿勢の転換と地域安定化
サウジアラビアの外交政策にも顕著な変化が見られる。2023年、中国の仲介により断絶していたイランとの国交が回復したことは、中東情勢において画期的な出来事となった。長年の宿敵イランとの緊張緩和を通じて、地域全体の安定化と自国の安全保障環境改善を同時に追求する姿勢は、サウジアラビアの外交戦略が単純な敵対構造から、より現実的なバランス外交へと進化していることを示している。
イスラエル・パレスチナ問題でも、サウジアラビアは二国家解決案を支持しつつ、フランスとともに中東全体の平和構築を主導する動きを見せている。米国との同盟関係を維持しながら、中国やイランとの対話も模索する多元外交は、サウジアラビアが地域の新たな秩序形成において中心的役割を目指していることを物語る。
エネルギー戦略の再構築
OPEC加盟国の中核として、サウジアラビアは原油価格の安定化に重要な役割を果たしてきた。しかし最近の動向は、従来の価格維持から市場シェア重視への方針転換を示唆している。2025年、OPECプラス有志8カ国は日量220万バレルの自主減産を終了し、段階的な増産へと舵を切った。
この決定の背景には、米国やブラジルなどの非OPEC産油国の増産により、市場での影響力低下への危機感がある。サウジアラビアの財政均衡には1バレル90.9ドルの原油価格が必要とされるが、供給過剰の市場環境下で、同国は価格防衛と市場シェア確保の間で難しい綱渡りを強いられている。
若者主導の社会変革
サウジアラビアで最も劇的な変化は、社会構造そのものの転換だろう。人口の67%が35歳未満という若い国家において、政府主導の社会改革は加速している。女性の就労や公的活動の解禁、宗教警察の権限縮小、観光ビザ制度の導入など、わずか数年前には考えられなかった変化が次々と実現している。
スポーツ産業の発展も、「ビジョン2030」の重要な柱だ。国際大会の招致やスタジアム整備を通じて、サウジアラビアはスポーツ大国としての地位確立を目指している。住宅政策では、わずか4年間で持ち家率が47%から60%へと急上昇し、若者の上昇志向が政策目標の早期達成を後押ししている。
課題山積も改革継続へ
NEOMプロジェクトの縮小に象徴されるように、サウジアラビアの改革路線は必ずしも順風満帆ではない。巨額の投資を必要とする開発計画と原油価格の不安定性、急速な社会変革に対する保守層の抵抗など、課題は山積している。
それでも人口の大半を占める若い世代の変革への意欲は高く、政府の改革姿勢にも揺るぎは見られない。石油に依存した経済構造からの脱却という歴史的挑戦において、サウジアラビアは試行錯誤を重ねながらも、着実に新たな国家像の実現に向けて前進している。中東地域のみならず、世界経済に大きな影響を持つ同国の今後の動向が注目される。