佐川急便、物流2025年問題に挑む:段階的運賃改定と自動運転DXの複合戦略
ニュース要約: 佐川急便は、年末需要増大と深刻なドライバー不足(物流2025年問題)に対応するため、短期・長期の複合戦略を推進。短期では集荷予約制を厳格化し、コスト増に対応するため運賃を段階的に改定した。長期では、自動運転トラックの商用運行やロボティクス導入を加速させる物流DXを推進し、持続可能な物流体制の構築を目指す。
佐川急便、迫り来る「物流2025年問題」と年末需要の波に挑む:DX加速と段階的運賃改定の戦略
【東京】 日本の物流を支える大手の一角、佐川急便が、この冬、年末年始の需要増大と構造的なドライバー不足という二重の課題に直面している。同社は、荷量のピークに対応するため集荷予約制の徹底など顧客への協力を強く求めると同時に、人件費高騰や燃料費上昇に対応する運賃改定を段階的に実施。さらに、将来的な労働力不足を克服すべく、自動運転トラックやロボティクス技術の導入を加速させる「物流DX」戦略を鮮明に打ち出している。
年末年始の「物流逼迫」回避へ:予約制と指定日配達の徹底
毎年恒例の物流繁忙期を前に、佐川急便は2025年12月1日から2026年1月5日までの期間、集荷体制を厳格化している。特に注目されるのは、当日の集荷依頼を原則停止し、前日までの連絡を必須とする集荷予約制の適用だ。
これにより、計画的な物流オペレーションの維持を図る。また、この期間の配達を希望する荷物については、「指定日配達シール」の貼付や送り状への明記を徹底するよう顧客側に要請。しかしながら、全国的な急激な物量増加に加え、年末の道路混雑が重なり、指定日時の遅延が生じる可能性を公式に周知しており、「余裕をもった発送」を強く推奨している。
同社が、時間帯指定サービスを維持しつつも集荷・配達のルールを厳格化するのは、現場の負担を軽減し、サービス品質の維持を図るための喫緊の対策と言える。
段階的な運賃改定:コスト増加の適正転嫁
物流維持コストの上昇は避けられない潮流だ。佐川急便は、2024年から2025年にかけて複数回の運賃改定を実施しており、特に個人や中小企業における配送料の負担が増加している。一例として、関東から関西への60サイズ荷物の送料は、この2年間で大幅に上昇し、荷主の経営戦略に大きな影響を与えている。
同社の価格戦略の特徴は、2024年4月、2025年1月、7月と段階的に改定を行うことで、ユーザーの負担感を分散させている点にある。また、通常宅配便に加え、クール便や即日配達便などサービス別に細分化された料金体系を導入し、付加価値の高いサービスには適正価格を求めている。
この運賃改定は、燃料費高騰や人件費増加に対応するためのものであり、特にEC事業者にとっては、送料増加分を消費者価格に転嫁する難しさや、競争力維持のためのコスト管理が大きな課題となっている。持続可能な物流サービスを提供するための「適正価格」の追求は、社会全体で受け入れるべき課題となっている。
深刻化する「2025年問題」:自動運転とロボティクスで活路
構造的な問題として、物流業界全体でドライバー不足が深刻化している。国土交通省の試算では、2025年には全国で約14万人のドライバーが不足すると予測され、この「物流2025年問題」への対応は待ったなしの状況だ。
佐川急便は、この危機を乗り越えるため、物流DXを最優先課題として推進している。その最前線が、幹線輸送における自動運転技術の導入だ。同社は2025年7月1日より、T2(ティーツー)と提携し、関東~関西間の幹線輸送で国内初となるレベル2自動運転トラックの商用運行を開始した。これにより、ドライバーがハンドルから手を放す運転が可能となり、運行本数は実証段階から大幅に増強された。
さらに同社は、2027年にはドライバーの乗車を必要としない「レベル4自動運転」による幹線輸送の実現を目指しており、将来的には四国・九州への運行区間延伸も視野に入れている。
現場の効率化も進む。佐川急便の物流拠点では、仕分け業務にロボットソーターが導入され、人員を約3割削減しつつ生産性を向上させた。また、トラックへの荷物積み込みをAIが判断し自動で行う荷役ロボットの導入も進められており、ドライバーの負担軽減と作業時間の短縮に貢献している。
佐川急便の複合的な戦略は、目の前の繁忙期を乗り切るための短期的な対策と、持続可能な物流インフラを構築するための長期的なDX投資のバランスの上に成り立っている。運賃改定によるコスト適正化と、AI・ロボティクスによる生産性向上は、日本の物流の未来を左右する重要な試金石となるだろう。