【深層分析】PSGの現在地：CL初制覇後の「成長痛」、エンリケの戦術課題と長期戦略

【深層分析】パリ・サンジェルマン（PSG）の現在地：CL初制覇後の「成長痛」と中東資本の長期戦略

2025年11月30日 パリ発

今季も欧州サッカー界の盟主として君臨するパリサンジェルマン（PSG）は、ルイス・エンリケ監督の下、クラブ史上初のUEFAチャンピオンズリーグ（CL）制覇と国内三冠を達成した2025年を終え、新たなステージへと歩みを進めている。リーグ・アンでは首位を堅持し、CLリーグフェーズでもトッテナム・ホットスパーを5-3で破るなど攻撃力の高さは健在だ。しかし、その華々しい成果の裏側で、守備の安定性や主力選手のコンディション管理といった戦術的な課題が浮上しており、冬の移籍市場を前に戦力再編の動きも活発化している。

三冠監督エンリケの「偉業」と直面する戦術的課題

ルイス・エンリケ監督は、2025年5月にCL決勝でインテルを圧倒し、異なるクラブでCL制覇と三冠を達成した史上2人目の監督という偉業を成し遂げた。この成功は、カタールW杯での経験を糧にした迅速な戦術修正能力と、若手とベテランを融合させたチーム統率力が高く評価された結果である。ナセル・アル・ケライフィ会長が2029年までの契約延長を提示し、「世界最高の監督」と絶賛するのも納得できる采配だ。

直近の試合では、ウスマーヌ・デンベレ（リーグ・アン評価点7.65でチーム最高）、ブラッドリー・バルコラ（リーグトップの10アシスト）といった攻撃陣が爆発的な得点力を示している。特に中盤では、ポルトガル代表MFのヴィティーニャがチームの中核として存在感を高めており、その卓越したボール捌きと配球能力は、リバプールやレアル・マドリードといった欧州ビッグクラブの視線を集めるほどだ。

しかし、攻撃の充実とは裏腹に、守備の脆さが露呈している点も無視できない。CLトッテナム戦での5得点・3失点という結果は、高い得点力の裏返しであると同時に、守備の不安定さを示している。さらに、ヌーノ・メンデスのようにCL戦後にコンディション不良を訴え、次戦を欠場する主力選手が出ていることから、ルイス・エンリケ監督にとって、過密日程下でのリスクマネジメントと、守備陣の安定化が喫緊の課題となっている。

冬の移籍市場：ストライカーとサイドバック補強が最優先

パリサンジェルマンは、2025年冬の移籍市場において、戦力の底上げを最優先事項としている。特に、コロ・ムアニやゴンサロ・ラモスといった現有ストライカーへの信頼がまだ定まりきっていないため、新たなエース候補の獲得が急務だ。

補強ターゲットとして最有力視されているのは、ガラタサライのヴィクトル・オシムヘンである。インテルのマルクス・テュラムやスポルティングのヴィクトル・ギェケレシュらもリストアップされており、即戦力となる得点源の確保に巨額の資金が投じられる見込みだ。

一方、放出の動きも注目される。新契約交渉が破談したとされるヌーノ・メンデスの今冬の放出が濃厚と報じられており、これに伴い左サイドバックのピンポイント補強も視野に入れている。また、中盤の要であるヴィティーニャに対しても、リバプールやレアル・マドリードが1億3000万ユーロ（約232億円）という巨額の移籍金を提示する可能性があるとされ、クラブの経営判断が注目される。

韓国代表MFのイ・ガンインは、今季アシスト6を記録するなど一定の貢献を見せているものの、スター集団のパリサンジェルマンにおいてレギュラーポジションを確固たるものにするには、さらなる激しい競争に打ち勝つ必要がある。

QSIが描く「持続可能な成功」：ブランド価値の向上戦略

パリサンジェルマンの経営母体であるカタールスポーツ投資（QSI）にとって、2025年のCL初制覇は、2011年の中東資本参入以来の最大目標であった。この偉業達成は、クラブのブランド価値とグローバルマーケティング力を飛躍的に向上させ、「金満クラブ」という従来のイメージを払拭し、「戦術的・組織的に成熟したクラブ」への転換を図る大きな契機となった。

エンリケ監督との2029年までの長期契約は、QSIが短期的な結果だけでなく、「持続的な成功」を志向する長期戦略の表れである。クラブは、監督の采配力とチームの結束力を基盤とし、アジアや中東市場でのマーケティング強化、若手育成プログラムの拡充など、多角的なビジネス展開を加速させている。

パリサンジェルマンは、戦術的な課題を克服し、移籍市場で的確な補強を行うことで、欧州の頂点に立ち続けることを目指している。CL初制覇というゴールを達成した今、クラブがどのように「次なる一手」を打ち、真の盟主としての地位を確立していくのか、世界のサッカーファンは固唾をのんで見守っている。