ピザハット、インフレ下の年末商戦戦略:「体験型」メニューとデジタル予約で差別化
ニュース要約: 原材料費高騰が続く中、ピザハットは2025年末商戦に向け、価格訴求から「体験型」メニューとデジタル戦略へのシフトを鮮明にしている。クリスマス早割予約で需要を囲い込みつつ、レトロ洋食ピザや和スイーツコラボなど奇抜な限定メニューでブランド力を強化。インフレ下での売上確保と長期的な成長を目指す。
ピザハット、インフレ下の攻防 – 「体験型」メニューとデジタル戦略で挑む年末商戦
2025年11月24日
原材料費や人件費の高騰が続く中、外食・中食産業は厳しい価格競争に晒されている。特に宅配ピザ業界では、大手チェーンが熾烈なシェア争いを展開する。こうした環境下、ピザハットは2025年の年末商戦に向け、従来の「価格訴求」に加え、「体験型」の限定メニューとデジタルを駆使した予約戦略を軸に、競合他社との差別化を鮮明にしている。
デジタル予約で優位性を確保するクリスマス戦略
ピザハットが最も注力するのが、年間最大の需要期であるクリスマス期間だ。同社は12月19日から25日までの7日間限定で、最大4,340円お得になる3種類のクリスマスセットメニューを投入する。これらのセットには、冬限定の「冬のプレミアム4(チージーロール)」ピザが組み込まれており、家族や友人との特別な食卓を演出する「プレミアム感」を打ち出している。
特筆すべきは、デジタルチャネルへの誘導強化だ。この7日間、ピザハットオンラインまたは公式アプリで受け渡し日の前日までに予約を行うと、会計からさらに5%割引になる特別キャンペーンを実施する。これは、需要が集中するクリスマス期間の混雑緩和と、顧客データの収集・活用(データドリブンなマーケティング)を両立させる狙いがある。
競合他社も同様に割引施策を展開するが、ピザハットは「先着順」での早めの予約を呼びかけることで、確実な需要の囲い込みを図っている。インフレ下で消費者の財布の紐が固くなる中、「お得感」と「利便性」をデジタルで融合させ、早期の受注を確保する戦略が浮き彫りとなっている。
「奇抜な新メニュー」が牽引するブランド力強化
ピザハットの今年の攻勢は、価格戦略だけに留まらない。従来のピザの枠を超えた「奇抜な新メニュー」の連発が、SNS上で大きな話題を呼んでいる。
例えば、冬に登場した「芳醇牛タンシチュー フレッシュモッツァレラを添えて」などの「レトロ洋食ピザ」は、老舗洋食店の味を再現するというコンセプトで、消費者に「懐かしさ」と「家族で囲むごちそう」という「体験型」の価値を提供する。SNSでは「家族で食べた」「昔の洋食屋の味が蘇った」といった投稿が拡散され、話題性を高めている。
さらに、ピザハット史上初の和スイーツピザとして、祇園辻利とコラボレーションした「ハンディメルツ 抹茶白玉黒みつ」は、和菓子とピザという「意外性」が消費者の興味を引きつけ、「衝撃的」「食べてみたい」とバズを生み出した。また、AI技術を活用して開発された「AIピザ」も、技術革新と職人技の融合として注目を集めた。
こうした限定的かつユニークな商品展開は、単なる売上向上だけでなく、ブランドの話題性を高め、消費者とのエンゲージメントを深める効果がある。特に若年層やSNSユーザーに対し、ピザハットを「常に新しいことに挑戦するブランド」として印象付けることに成功している。
インフレ対応と競争環境 – 価格戦略の最適化
原材料価格の高騰が続く厳しいインフレ環境下において、ピザハットはコスト効率の最適化を急いでいる。売れ筋ではない商品のラインナップを意図的に絞り込むことで、フードロスの削減とコスト効率の向上を図り、品質を維持しながらの価格調整を実現している。
価格戦略の基盤は、引き続き「持ち帰り半額」や「デリバリー30%オフ」といった強力なプロモーションだ。これにより、ドミノ・ピザが「コスパ・経済性」を前面に押し出す中で、ピザハットも価格競争力を維持している。
また、店舗戦略では、オンラインで注文し店舗で受け取るBOPIS(Buy Online, Pick Up In Store)モデルを導入し、店舗の初期投資を抑えることで、利益率の向上と価格競争力の維持を両立させている。
ピザハットの戦略は、短期的な値下げ競争ではなく、デジタルマーケティングによる顧客データの活用と、奇抜な新メニューによる「ブランド力」の強化を通じて、長期的な成長を目指すものだ。この年末商戦の結果は、同社のデジタルと商品開発への投資が、インフレ下の消費行動にどこまで響くかを占う試金石となるだろう。