日経平均5万5千円へ:2026年史上最高値更新の現実味とAIバブル、日銀正常化の二重奏
ニュース要約: 複数の証券会社は2026年末の日経平均株価が55,000円に達すると予測。企業業績の改善や新NISAが追い風となる一方、世界的なAIバブルの行方、米金融政策の不透明性、日銀による正常化がセクター間の明暗を分けるリスク要因として注視されており、史上最高値更新への試金石となる。
2026年、日経平均は史上最高値へ——「5万5千円」の現実味とAIバブルの波紋
【東京】 2025年12月1日、年の瀬を迎えた日本株式市場は、強気な見通しに包まれている。複数の大手証券会社や市場アナリストは、来たる2026年に向けて日経平均株価が史上最高値を大幅に更新するとの予測を打ち出しており、特に野村證券は2026年末のメインシナリオとして55,000円到達を掲げ、上振れすれば59,000円の可能性すら示唆している。この背景には、企業業績の増益基調、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資の進展、そして日本銀行(日銀)による金融政策の正常化に向けた緩やかな舵取りがある。
しかし、この楽観的なムードの裏側で、市場は複数のリスク要因を警戒している。特に、世界的なAIブームの行方、米国の金融政策の不透明性、そして地政学的な関税リスクの再燃が、今後の株価動向を左右する鍵となる。
史上最高値更新を支える国内要因と海外リスク
現在の株価上昇期待の土台を築いているのは、国内企業の構造的な変化だ。賃金上昇が消費を押し上げ、中間配当の再投資が年末の株価を下支えする構図が見える。また、日本企業によるコーポレートガバナンス改革の進展も、海外投資家からの評価を高める要因となっている。2025年12月末に向けては、日経平均が4万9,500円から5万1,500円のレンジで推移し、25日移動平均線を明確に上抜ければ、一段高への期待が強まるとの見方が有力だ。
一方で、最大の懸念材料は、世界経済の成長を牽引するAI投資の持続性である。もしAI関連技術の進展が停滞したり、期待先行で高騰した半導体関連株が調整局面に入ったりすれば、世界的な景気減速を引き起こし、東京市場の株価にも大きな下押し圧力がかかる。さらに、米国連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の方向性、特にインフレ懸念の再燃による想定外の利上げは、世界の投資家心理に波乱をもたらす要因として常に注視されている。
日銀の「正常化」がもたらすセクター間の明暗
2026年にかけて、日銀は金融政策の正常化を段階的に進める見通しだ。政策金利は2026年前半に0.5%から1.0%へ引き上げられる計画であり、国債買入れ額の減額ペースも緩やかに調整される。さらに、日銀が保有するETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)の売却計画が打ち出されており、これが個別セクターの株価に複雑な影響を与えている。
金利が上昇する局面では、銀行や保険などの金融セクターは金利収益の増加が見込まれ、業績拡大への期待が高まる。しかし、不動産セクターやREITは、日銀による売却圧力に加え、金利上昇による資金調達コストの増大という二重苦に直面する可能性がある。また、内需・消費関連銘柄も、金利上昇が消費や設備投資を抑制する要因となるため、個別銘柄のファンダメンタルズ分析がこれまで以上に重要となる。
日銀の正常化は、日本経済がデフレから脱却しつつある証拠であり、長期的にはプラス材料と捉えられているが、短期的なセクター間の資金移動と株価のボラティリティを高めることは避けられない。
AI関連株:「バブル」か「長期トレンド」か
現在の市場の熱狂を象徴するのが、AIブーム下の半導体関連株の急騰である。エヌビディアやTSMCといった大手企業の好決算が相次ぎ、関連銘柄の株価は収益以上のスピードで上昇している。
しかし、この過熱ぶりに対し、市場関係者からは「バブル化」への警鐘が鳴らされている。OpenAIのサム・アルトマンCEO自身が現在の市場への投資は過熱しているとの見解を示しており、PER(株価収益率)が高水準にある銘柄群は、わずかなネガティブ材料で調整を強いられるリスクを抱える。
一方で、マネックス証券の岡元兵八郎氏など、多くの専門家はAIを自動運転やロボット普及に不可欠な「長期的な投資テーマ」と捉えている。生成AI市場の急速な拡大(2025年の支出見込み約95兆円)が示すように、実需に基づいた成長が続いていることも事実だ。投資家は、投機的な価格形成と、データセンター投資や産業用途の拡大という実質的な成長要因とを峻別する必要に迫られている。
新NISAが支える個人投資家の長期志向
国内の株価の安定的な下支えとなっているのが、2024年に導入された新NISA制度だ。2025年上期(1~6月)のNISA買付額は10.5兆円に達し、特に若年層や中間層の利用が顕著に拡大している。
新NISAの浸透により、個人投資家の間では「長期・積立・分散投資」の意識が定着しつつある。短期的な株価のボラティリティに左右されず、成長投資枠を通じて成長株やグローバル株式への資金流入が積極化している。同時に、金利上昇リスクや市場変動に備え、安定志向の個人投資家は高配当株や安定型ファンドにも資金を分散させる傾向を強めている。
2026年に向けて、日本株市場は、企業収益の改善と個人投資家による長期資金の流入という強力な後押しを受ける。しかし、AI投資の成否と国際的な金融・経済摩擦のリスクを乗り越えられるかどうかが、日経平均株価が史上最高値の金字塔を打ち立てるための試金石となるだろう。市場関係者は、年末の動向を注視しつつ、来年の戦略を練っている。