大河『べらぼう』終盤の深層:歌麿の「決裂」と秘めた恋心、平賀源内生存説の謎
ニュース要約: NHK大河ドラマ『べらぼう』は終盤を迎え、蔦重と歌麿の衝撃的な「決裂」が描かれる。歌麿の決別宣言の裏には、蔦重への秘めた恋心があったと解釈され、ドラマを緊迫させる。さらに、通説を覆す平賀源内生存説の謎が浮上。権力者・一橋治済が絡む政治的背景を描き出し、江戸の歴史ミステリーの深部を提示する。
大河ドラマ『べらぼう』終盤戦の深層:蔦重と歌麿の「決裂」と、江戸の闇に消えた天才「平賀源内」生存説を追う
2025年11月、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、クライマックスに向けて激しさを増しています。単なる浮世絵師・蔦屋重三郎の成功譚に留まらず、登場人物たちの複雑な愛憎劇、そして江戸の権力構造と歴史ミステリーが絡み合い、視聴者を深く引き込んでいます。
終盤戦の最大の注目点は、主人公・蔦重と、稀代の天才絵師・喜多川歌麿の関係性の終焉です。
1.芸術と秘めた恋心:歌麿の「決裂宣言」が意味するもの
蔦重と歌麿(べらぼう歌麿)は、互いの才能を認め合い、江戸の文化を牽引してきました。しかし、第43回で歌麿が蔦重に対し「もう組まない」と決別を宣言する展開は、多くの視聴者に衝撃を与えました。
歌麿がその直後に描き始めたのが、連作「歌撰恋之部」です。この恋愛を主題とした作品群の裏には、蔦重への秘めた「恋心」があったと解釈されています。自身が抱える複雑な感情を、芸術によって昇華させようとする歌麿。しかし、蔦重はその心情に気づかず、二人の関係は決裂に向かって突き進むことになります。芸術的な盟友関係の崩壊と、報われない切ない恋心が交錯する心理劇は、この大河ドラマの終盤を極めて緊迫したものにしています。
やがて蔦重は脚気で倒れ、彼の人生の終焉が近づく中で、この二人の芸術的かつ個人的な関係は、いかにして幕を閉じるのか。その結末は、多くの日本人の心を揺さぶるに違いありません。
2.江戸のミステリー:平賀源内は生き延びたのか
ドラマが終盤に向けて投じるもう一つの大きな波紋が、「平賀源内生存説」です。
通説では、エレキテルを発明した天才・平賀源内は、安永8年(1779年)に獄中で破傷風などで亡くなったとされています。しかし、江戸時代から「実は生き延びていた」という伝承が根強く存在します。
この生存説の背景には、源内を庇護していた老中・田沼意次(おきつぐ)の存在があります。田沼が源内を密かに助け出し、遠州(静岡県相良地域)や出羽庄内といった遠隔地へ逃亡させたという噂は、単なる民間伝承に留まらず、明治期の文献にも記録されています。相良には、現在も「源内の墓」の伝承が残るなど、この説は単なる空想で片づけられない歴史の「if」を提示しています。
ドラマは、このミステリーを重要な要素として取り込み、蔦重がその謎を追う展開となっています。
3.権力構造とミステリーの語り部
源内の生存説が注目される一方で、江戸幕府の闇を象徴する権力者、一橋治済(ひとつばしはるさだ)の存在も見逃せません。
治済は、11代将軍・家斉の実父として幕府内の実権を掌握し、「江戸城の怪物」「鬼」と恐れられました。彼は野心家であり、政敵であった田沼意次派を一掃するなど、冷酷な権力闘争を繰り広げました。源内の死(あるいは生存)の背後に、治済をはじめとする幕府上層部の権力構造がどのように影響していたのか。ドラマは、歴史の表舞台では語られない、江戸の深部を描き出しています。
この複雑な生存説を、物語に持ち込む鍵を握るのが、井上芳雄氏演じる重田貞一(後の十返舎一九)です。ミュージカル界のトップスターである井上氏の高い表現力と説得力のある演技は、重田貞一が源内の謎を語り継ぐキーパーソンとしての役割に、確かな重厚さを与えています。彼の登場が、終盤戦の物語に新鮮なエネルギーとミステリーを注入しているのです。
『べらぼう』は、喜多川歌麿の芸術家としての葛藤、蔦屋重三郎との個人的な関係の終焉、そして平賀源内という天才が権力の波に飲まれた「死」の真相を巡る旅を通じて、江戸時代の人間関係の複雑さ、そして歴史の隙間に残された「文化的想像力」を我々に提示しています。残すところわずかとなったこの大河ドラマの結末が、どのような余韻を残すのか、日本中が固唾を飲んで見守っています。