【国家戦略】南鳥島レアアース開発が最終局面へ:2028年度商業生産で中国依存脱却と経済安全保障を確立
ニュース要約: 日本の最東端、南鳥島沖のレアアース開発が最終段階に突入。2026年試掘開始、2028年度の商業生産を目指す。推定1600万トンの国産資源は、中国依存脱却と日本の経済安全保障の根幹を担う国策。技術開発に加え、太平洋防衛拠点としての戦略的価値も高く、インフラ整備が急務となっている。
「国境の島」南鳥島、レアアース開発が最終局面へ 2028年度商業生産視野に 技術と安全保障の両輪で国家戦略を担う
【東京】 日本の最東端に位置する孤島、南鳥島(東京都小笠原村)周辺の排他的経済水域(EEZ)における深海底資源開発プロジェクトが、いよいよ最終段階に突入している。海洋研究開発機構(JAMSTEC)を中心とする開発チームは、2026年1月の深海6000mにおける試掘開始を皮切りに、2028年度以降の商業生産体制の確立を目指し、技術実証を加速させている。このプロジェクトは、中国への高い依存度を抱える日本の資源戦略、ひいては経済安全保障の根幹に関わる国策として、多大な期待が寄せられている。
中国依存脱却へ 世界第3位の「国産レアアース」
南鳥島沖に眠るレアアース泥の埋蔵量は、推定約1600万トン。これは世界の需要を数十年賄える量であり、世界第3位に匹敵する巨大な資源源だ。2013年の調査でこの存在が明らかになって以来、日本政府はここを「国産レアアース」の供給基地とするべく、技術開発に集中的に投資してきた。
この資源開発が喫緊の課題となった背景には、中国によるレアアースの輸出規制リスクがある。ハイテク産業に不可欠なレアアースを巡る国際的な供給不安に対し、日本は自立的なサプライチェーンの構築を急務としている。
計画では、2026年1月より深海6000mでの試掘を開始し、翌2027年1月からは本格的な採掘試験へ移行する。特に注目されるのが、水深6000mという過酷な環境下での揚泥技術だ。開発チームは、世界初の深海採掘技術を確立し、2027年には1日あたり約350トンの揚泥試験を実施する予定だ。同時に、陸上での分離・精製技術の整備も並行して進められており、放射性元素の含有量が少ないというこの資源の特性を活かし、環境負荷の低減も視野に入れている。
太平洋防衛の要としての戦略的価値
南鳥島の重要性は、資源開発にとどまらない。本州から約1800km離れたこの島は、日本のEEZを支える戦略的な防衛拠点でもある。南鳥島周辺のEEZは約43万平方キロメートルと、日本の国土面積を超える広大さを誇り、海上自衛隊の派遣隊が常駐し、広大な太平洋の防衛監視任務を担っている。
近年、中国海軍の空母を始めとする艦艇が、南鳥島周辺のEEZに進入する事例が確認されており、この動きは日本の海洋権益に対する中国の軍事的・経済的関心の高まりを示唆している。島を防衛拠点として維持・強化することは、太平洋方面の海洋安全保障を維持し、中国の進出に対する強力な抑止力として機能する。
また、レアアース泥に加え、コバルトリッチクラストなどの希少金属を含むマンガンノジュールも豊富に存在しており、南鳥島の防衛能力は、将来的な日本の資源戦略を担保する上でも不可欠な要素となっている。
遠隔地のインフラ整備が鍵
しかし、南鳥島での国策プロジェクト推進には、地理的な制約による難題が立ちはだかる。
最大の課題は、遠隔地特有のインフラの脆弱性である。本土から1950kmも離れたこの島には、500トン級の船舶が着岸できる港湾施設がなく、物資の搬入や人員の移動は、天候に大きく左右されるゴムボートに頼らざるを得ない。このアクセスの困難さが、技術開発や実証試験の効率を著しく低下させている。
このため、政府は南鳥島の港湾整備を最重要課題と位置づけ、岸壁の延長や水深の確保など、強靭なインフラ構築を急いでいる。資源開発を安全かつ継続的に行うためには、悪天候下でも機能する堅牢なサプライチェーンと、迅速な対応体制の整備が不可欠だ。
さらに、南鳥島がサンゴ礁で形成された卓礁であるため、気候変動による海面上昇や波の変動が、島の地形や脆弱な生態系に影響を与えるリスクも指摘されており、環境保全と開発の両立が求められている。
国家の未来を担う「特定離島」
南鳥島は、単なる日本の最東端という地理的なシンボルではない。広大なEEZを担保し、次世代の国産資源供給を担い、そして太平洋防衛の第一線として機能する、まさに「特定離島」としての機能が極めて高い。
2028年度の商業生産開始に向け、技術開発は着実に進んでいるが、遠隔地特有のインフラ課題克服、そして国際的な海洋情勢の緊迫化への対応は、引き続き政府の最優先課題となる。南鳥島沖のレアアースは、日本の経済安全保障と資源自立に向けた国家的な挑戦の成否を握っている。