幸楽苑「原点回帰」とSNS戦略で難局突破へ:冬期限定メニューと収益構造改革の行方
ニュース要約: ラーメンチェーン大手・幸楽苑は、物価高騰に対応するため、伝統の味への「原点回帰」を軸に構造改革を加速させている。冬期限定メニュー投入に加え、不採算店舗の整理やSNS戦略(羽生結弦選手コラボなど)で集客を強化。収益体質の強化と持続可能な成長モデルの確立を目指す。
幸楽苑、「原点回帰」とSNS戦略で難局に挑む:冬期限定メニューと収益構造改革の行方
【東京】 物価高騰と人件費上昇が外食産業を直撃する中、ラーメンチェーン大手の幸楽苑ホールディングス(HD)は、伝統的な味への「原点回帰」を軸としつつ、大胆な経営効率化とデジタルを活用した顧客エンゲージメント戦略を推し進めている。2025年11月現在、同社は冬期限定メニューの投入と並行し、構造改革を加速。持続可能な成長モデルの確立を目指すその戦略に注目が集まっている。
厳しい冬に「ゆず塩」と「ごま味噌」を投入
幸楽苑は、本格的な冬の需要期を捉えるべく、2025年1月9日より、冬季限定メニューとして「ゆず塩らーめん」と「ごま味噌らーめん」を全国の店舗(一部除く)で販売開始した。これらは昨年も人気を博した商品であり、顧客の期待に応える形で再登場となった。
「ゆず塩らーめん」は、ゆずの爽やかな香りと野菜の甘みが特徴のさっぱりとした味わいで、老若男女問わず支持を集めている。一方、「ごま味噌らーめん」は、たっぷりのごまを使用し、濃厚でコク深い味噌味が寒い季節に高い満足感を提供する。
単品価格は760円(税込)だが、同社はセットメニュー(餃子セット、餃子ライスセットなど)を860円から990円というお得な価格で提供。物価高騰下で消費者の財布の紐が固くなる中、セット割引によって客単価の維持と顧客満足度の向上を両立させる狙いが見える。この限定メニュー戦略は、味の多様性を提供することで、顧客の来店頻度を高める重要な施策と位置付けられている。
「選択と集中」で収益体質強化を急ぐ
限定メニューによる集客強化と並行し、幸楽苑が最も注力しているのは、経営基盤の抜本的な見直しである。同社は、中期経営計画(2026~2028年度)において「収益体質強化」を最優先課題に掲げている。
具体的には、不採算店舗の閉店・売却を進めるとともに、自社物件の売却による手元資金の拡充を図っている。これは、コスト増に耐えうる強靭な財務体質を構築するための「縮小均衡」戦略の一環だ。
一方で、店舗展開においては、ドミナント戦略を継続し、既存商圏内で効率を追求する。2029年3月期までに23店舗の新規出店を計画しているが、出店は主要幹線道路や生活道路沿いを重視し、事前のマーケティング調査を徹底。成功率優先の慎重な方針を貫く。食材配送の効率化や、地域のファミリー層・ビジネス層の顧客獲得を狙った地域密着型の展開が特徴だ。
SNSで社会現象化するエンゲージメント戦略
伝統的な経営改革と並行して、幸楽苑が近年成功を収めているのが、デジタルマーケティング、特にSNSを活用した顧客との接点強化だ。
SNS上では、羽生結弦選手とのコラボ企画「#YuzuruRamenChallenge」が大きなブームとなり、ラーメンを食べながら羽生選手のポーズを真似る投稿が相次ぎ、一時トレンド1位を獲得するなど、幸楽苑の認知度を飛躍的に向上させた。
また、家庭でプロの味を楽しめる「冷凍生餃子」は、その裏技的アレンジレシピがSNSで「おうちでプロ並みの味」とバズり、人気商品となっている。特に「焼く前に水を加えて蒸し焼きにする」方法や、「餃子スープ」へのアレンジなどが話題だ。
さらに、2025年9月に開催された創業71周年記念「創業祭」では、福島県郡山市のご当地ラーメン「郡山ブラック」を特別価格500円(税込)で提供。地域の食文化を全国に発信しつつ、「ワンコインで大満足」というお得感を強調することで、ファン層の拡大に成功した。
結論:伝統と革新の融合へ
幸楽苑は、創業から70年を超える歴史の中で培ってきた「シンプルで飽きのこない味」という原点を守りつつ、厳しい経済環境に対応するための経営効率化、そして若年層を取り込むための先進的なSNS戦略を巧みに融合させている。
限定メニューによる冬の需要喚起、不採算事業の整理による収益体質強化、そしてデジタルを活用した話題性の創出。これら「守り」と「攻め」の二刀流によって、同社が今後、外食産業の難局をどのように乗り越え、持続的な成長を実現するのか、市場関係者の注目が続いている。(経済部記者:田中 剛)