絶景の裏側:神宮外苑イチョウ並木「黄金の危機」再開発計画の波紋
ニュース要約: 東京の象徴、神宮外苑イチョウ並木が黄金色の見頃を迎える裏で、大規模な再開発計画が進行中だ。事業者は保全を表明するが、国際機関イコモスは「ヘリテージ・アラート」を発令し、樹齢100年のイチョウを含む歴史的景観の不可逆的な喪失に警鐘を鳴らしている。長期的な保全と継承への議論が急務だ。
都会の「黄金のトンネル」に危機感:神宮外苑イチョウ並木、見頃の裏で進む再開発の波紋
2025年11月23日(東京)
晩秋の東京を彩る神宮外苑イチョウ並木が、今年も鮮やかな黄金色に染まり、週末のピークを迎えている。現在の色づきは7~8割に達し、青山通り口から聖徳記念絵画館に至る約300メートルの並木道は、まさに息をのむような「黄金のトンネル」を形成している。しかし、この都会の象徴的な景観の足元では、大規模な再開発計画が進行しており、貴重な景観と歴史的資産の長期的な保全を巡る議論は、依然として収束の兆しを見せていない。
絶景のピークは今週末、混雑回避が鍵
東京の紅葉名所として名高い神宮外苑イチョウ並木は、例年通り11月下旬から12月上旬にかけて最も美しい時期を迎える。最新の状況(11月23日現在)では、既に並木の多くが黄金色に輝き、一部では落ち葉の絨毯もでき始めている。特に11月29日から12月1日の週末は、満開から落葉が始まる直前の、最も華やかな状態が予測されており、多くの観光客で賑わう見通しだ。
混雑回避の観点からは、週末の昼前後(11:00~15:00)が最も集中するため、鑑賞を予定する訪問者には、平日の早朝(7:00~9:00)や、幻想的な光景が楽しめる夜間のライトアップ時間帯(16:30~19:30、11月30日まで)の訪問が推奨されている。撮影スポットとしては、並木道の突き当りにある聖徳記念絵画館を背景にした構図や、軟式球場グラウンド側からの並木全体を見渡す広角な視点が人気を集めている。
再開発計画と専門家の「ヘリテージ・アラート」
この伝統的な景観が、大規模な都市計画によって変化の渦中にある。三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)らが主体となる神宮外苑地区の再開発事業は、老朽化したスポーツ施設の刷新を目的としているが、周辺環境、特にイチョウ並木への影響について、国内外の専門家から強い懸念が示されている。
事業者は、4列からなるイチョウ並木そのものは伐採せず、保全を最重要事項とする方針を繰り返し表明している。しかし、並木周辺で進められる神宮球場や秩父宮ラグビー場の移転・新設工事に伴い、当初約1,400本とされていた周辺樹木の伐採計画は、市民や専門家の反対を受け743本に修正されたものの、依然として大規模な樹木が失われる予定だ。
懸念の核心は、並木道の根系への影響である。近接した建設工事や土壌環境の変化が、樹齢100年近いイチョウの長期的生命力に悪影響を及ぼす可能性は否定できない。国際的な文化財専門家組織であるイコモス(国際記念物遺跡会議)の日本委員会は、2024年9月、「ヘリテージ・アラート」を発出。都に対し、施行認可の撤回や環境影響評価の再審議を求め、歴史的景観の不可逆的な喪失に警鐘を鳴らしている。
保全策の強化と長期的なモニタリング
こうした批判を受け、事業者側も保全策の強化を図っている。2025年4月からは、イチョウ並木の「活力度評価調査」が実施されており、樹木医による継続的なモニタリングと、衰弱傾向にある樹木への対策立案が進められている。また、ラグビー場の設計変更や、野球場のセットバック(並木から10m後退)など、樹木保全を考慮した計画の見直しも一部で進められた。
しかし、専門家や市民団体からは、「見目麗しいイチョウ並木だけを特別扱いし、周辺の豊かな緑地をないがしろにしている」との指摘も根強い。すでに2025年6月までに高木約70本が伐採され、工事は着実に進行している。
神宮外苑のイチョウ並木は、単なる紅葉スポットではなく、明治期からの都市計画思想を体現する貴重な文化的遺産である。現在の黄金色の絶景を堪能すると同時に、この歴史的景観を次世代へいかに継承していくか、長期的な保全と周辺環境への影響評価の透明性が、今後も強く求められる。市民、専門家、行政、事業者が一体となり、東京の貴重な緑を守るための継続的な議論が不可欠となっている。(了)