待望のRSVワクチン、妊婦の定期接種へ 2026年4月開始で乳児重症化8割減
ニュース要約: 厚生労働省は、妊婦を対象としたRSウイルス(RSV)ワクチンの定期接種化を2026年4月から開始することを正式に了承した。これは、抗体を胎盤経由で移行させる「母子免疫」戦略であり、乳児のRSVによる重症化・入院リスクを80%以上低減させる画期的な予防策となる。現在高額な任意接種だが、定期接種化に伴い公費助成が導入される見込みで、普及拡大に期待がかかる。
待望の「母子免疫」戦略、RSVワクチンが妊婦の定期接種へ
〜2026年4月開始へ、乳児の重症化リスク8割減に期待される画期的予防策〜
2025年11月19日、厚生労働省の専門部会は、妊婦を対象としたRSウイルス(RSV)ワクチンの定期接種化を2026年4月から開始する方針を正式に了承しました。これは、乳幼児の重症化リスクを大幅に低減させる画期的な「母子免疫」戦略の導入であり、日本の小児医療における予防接種制度の大きな転換点となります。
これまでRSウイルス感染症は、特に乳児にとって肺炎や細気管支炎を引き起こし、入院や集中治療を必要とする主要な原因となってきました。待望久しいこの予防策の導入は、日本の親世代、そして医療従事者にとって朗報であり、今後の費用負担や普及に向けた課題に焦点が集まっています。
胎盤を経由する「盾」:母子免疫のメカニズム
今回、定期接種化の対象となるのは、ファイザー社製のRSVワクチン「アブリスボ®」です。接種対象は妊娠28週から36週の妊婦で、筋肉内に1回注射します。
このワクチンの特徴は、母体内で作られたRSVに対する抗体が、胎盤を介して胎児に直接移行する点にあります。これにより、赤ちゃんは生後すぐから約6ヵ月間にわたり、RSウイルスに対する高い防御力を得ることができます。
臨床試験の結果は非常に明確です。ワクチンを接種した妊婦から生まれた乳児は、生後180日以内におけるRSV関連の下気道感染症(肺炎など)の発症リスクが約50%減少し、重症化による入院リスクは80%以上低減することが示されています。これは、これまで重症化リスクの高い乳児に限定的に投与されてきた抗体薬(パリビズマブなど)とは異なり、より広範な新生児・乳児を感染から守るための強力な「盾」となります。
費用の壁を超えて:公費助成への期待
現在、このRSVワクチンは任意接種であり、費用は医療機関によって異なりますが、概ね3万円から3万4,100円程度の全額自己負担となっています。この高額な費用が、これまで接種率が低迷していた大きな要因の一つでした。2024年9月時点での妊婦総数に対する接種率はわずか約2%に留まっており、欧米諸国と比較しても低い水準です。
しかし、2026年4月からの定期接種化により、費用負担の軽減、すなわち公費助成制度が導入される見込みです。これにより、経済的な理由で接種を諦めていた家庭の負担が大幅に軽減され、接種率の飛躍的な向上が期待されます。厚生労働省は今後、具体的な助成額や制度設計を急ぐことになります。
普及に向けた課題と安全性の担保
定期接種化は喜ばしいニュースである一方、課題も残されています。
第一に、ワクチンの普及です。日本では、妊娠中のワクチン接種に対する慎重論や忌避感が根強く残る傾向があります。本ワクチンは、流産や早産、先天異常のリスクへの影響はないと安全性が確認されていますが、妊婦や家族に対する正確な情報提供と、不安を払拭する丁寧な啓発活動が不可欠です。
第二に、長期的な安全性データの継続的評価です。妊婦への接種は比較的新しいため、定期接種化後も母子への長期的な影響について、厳格な追跡調査とモニタリングが求められます。
また、本ワクチンの接種を完了した場合、生まれた乳児に対しては原則として従来の抗体薬の投与は行われません。医療現場では、接種記録の徹底管理や、短期出生時など抗体移行が不十分なケースへの対応など、母子両側の予防戦略の明確な使い分けが求められます。
2026年春、日本はRSウイルス感染症に対する予防戦略の新たなステージに入ります。定期接種化は、未来を担う子どもたちの健康を守るための、大きな一歩となるでしょう。国民の期待に応えるよう、公費助成制度の迅速かつ明確な整備が待たれます。