治安・貧困・中国接近:ホンジュラスが直面する内政と外交の「歴史的転換点」
ニュース要約: 中米ホンジュラスは、凶悪なギャング対策で治安改善を図る一方、国民の半数が苦しむ貧困と構造的な不安を抱える。2023年の対中外交転換は経済効果が限定的で、内政・外交両面で不安定な情勢が継続。治安悪化、貧困、気候変動、中国接近が複合し、国際社会の注視が集まっている。
ホンジュラス、「中米の火薬庫」で揺れる内政と外交:治安、貧困、中国接近の「功罪」を問う
【テグシガルパ発:2025年11月30日 記者特派】
中米の共和ホンジュラスは、現在、歴史的な転換期にある。凶悪なギャング組織「マラス・パンディージャス」による治安の深刻な悪化、国民の半数以上が貧困にあえぐ経済構造、そして2023年に踏み切った台湾との断交と中国への急接近という外交的「賭け」。カストロ政権は強権的な治安対策を打ち出す一方、期待された中国からの経済的利益は未だ限定的であり、内政・外交の両面で不安定な情勢が続いている。
ギャング対策の「強権」と治安の現実
ホンジュラスの治安情勢は長らく世界最悪レベルとされてきた。2011年には人口10万人あたりの殺人率が86.5人を記録したが、政府の強化策の結果、2023年時点では31.14人まで減少している。しかし、これはピーク時の半減とはいえ、依然として世界的に極めて高い水準であり、年間3,000人を超える殺人死者(1日あたり8~9人)が発生しているのが現実だ。
政府は2024年2月以降、首都テグシガルパを含む国内全185自治体で、憲法で保障された自由の一部停止を含む強力な治安維持措置を導入している。これは、ギャングが市民から「みかじめ料」を徴収し、拒否すれば殺害するという凶悪な手口に対抗するためである。
警察や司法の腐敗も治安悪化を助長する要因となっており、麻薬カルテルやギャングが一部地域を事実上支配する状況が続いている。この不安定な治安情勢と、それに起因する貧困や失業、教育機会の不足が、若者のギャング加入を促し、さらには米国を目指す大規模な移民キャラバンの継続的な発生につながっている。治安強化は一定の成果を上げつつも、根本的な解決には至っていない。
複合する貧困と気候変動の脅威
ホンジュラスが抱える根深い問題は、構造的な貧困である。国民の約5割から6割が貧困ライン以下で生活し、特に子どもたちの貧困率は74%に達する。若年層の約100万人が就学・就業しておらず、未来への希望を見出しにくい状況が社会不安の温床となっている。
さらに、気候変動による自然災害の頻発化が、この貧困をさらに加速させている。ホンジュラスはハリケーンの影響を受けやすい地勢にあり、2020年の「イータ」や「イオタ」のような大型ハリケーンが短期間に連続襲来し、甚大な被害をもたらした。農業中心の経済構造を持つ同国では、トウモロコシ、バナナ、コーヒーなどの主要農産物が打撃を受け、220万人以上が食料危機に直面している。干ばつの長期化も加わり、農村部の生活基盤は脆弱化の一途を辿っている。
日本をはじめとする国際協力機関(JICAなど)は、ICTを活用した教育支援や、災害に強いインフラ整備、気候変動対応型農業技術の導入など、多角的な支援を展開しているが、政治的腐敗や社会の不透明性が支援効果を阻害するケースも指摘されている。貧困問題は単なる経済問題ではなく、気候変動や政治的腐敗と複合的に絡み合っており、包括的なアプローチが不可欠となっている。
中国との外交転換、期待外れの経済効果
内政の困難が続く中、ホンジュラスは2023年3月に長年の友好国であった台湾との外交関係を断絶し、中国との国交を樹立した。カストロ政権はこれを「政府計画の達成」と位置付け、「一帯一路」構想への参加や大型インフラ投資、自由貿易協定(FTA)交渉開始を通じて、経済発展のテコ入れを図る狙いがあった。
中国側はテグシガルパに大使館を開設し、農業や科学技術など多面的な協力文書に署名するなど、関係強化を進めてきた。しかし、国交樹立から約2年が経過した現在、期待されたほどの貿易拡大や経済的利益は実現していないとの指摘が国内外の専門家から上がっている。経済は低迷したままであり、中国の約束が十分に履行されていないとの不満が国内で高まっている。
この結果、ホンジュラス国内の一部政治勢力や国民の間では、中国との関係を見直し、台湾との国交再開を求める声が次期大統領選の争点として浮上している。外交の転換が真に国民の利益につながるのか、それとも外交的な不安定要素となるのか。中米地域の安定を占う上で、ホンジュラスの動向は引き続き国際社会の注視を集めるだろう。(了)