東通原発の再稼働審査が長期化へ、安全対策の要「基準津波」再評価の厳格な壁
ニュース要約: 東北電力の東通原子力発電所1号機を巡る新規制基準適合性審査が長期化している。最大の焦点は、大規模な敷地造成を反映させた「基準津波の再評価」の厳格化だ。エネルギー安全保障上の要衝だが、技術的な適合性だけでなく、地元での信頼回復も再稼働の鍵を握る。
青森・東通原子力発電所、再稼働審査は長期化の様相 焦点は「基準津波」再評価と高台化工事
エネルギー安保の要衝、地元懸念払拭へ道遠く
【青森】東北電力の東通原子力発電所(東通原発、青森県下北郡東通村)1号炉を巡る新規制基準適合性審査が、長期化の様相を呈している。2025年12月現在、同原発は定期事業者検査のため停止状態にあり、再稼働の実現には至っていない。原子力規制委員会(NRC)による審査は、東日本大震災の教訓を踏まえた地震・津波対策に重点が置かれており、特に大規模な敷地造成を反映させた「基準津波の再評価」が最大の論点として浮上している。
同原発1号炉は2025年6月に新規制基準適合性審査を申請して以降、NRCでの審査会合が継続的に開催されている。審査プロセスの進捗は着実であるものの、その厳格さゆえに時間を要しているのが現状だ。
敷地造成を反映、「基準津波」評価の厳格化
審査の核心となっているのが、敷地の安全対策工事、とりわけ津波対策である。東北電力は、新規制基準に対応するため、敷地を海抜T.P.+17.0mまで高台化する造成工事を実施している。これに伴い、従来の津波シミュレーションを大幅に見直す必要が生じた。
2025年11月7日に開催された第1368回審査会合では、この敷地造成による地形変化を考慮に入れた基準津波の策定方針が議論された。従来の単一波モデルではなく、複数方向からの津波波を考慮した最新のシミュレーション結果が提出され、審査官は詳細な説明を求めた。この基準津波の設定は、安全対策の根幹をなすものであり、審査の完了には、数値の妥当性や評価手法の厳密性が完全に認められることが不可欠となる。
東北電力は、耐震工事や送電線の新設など、安全対策工事を計画的に進めてきた。当初は2025年9月までにプラント審査準備を完了させることを目標としていたが、審査の進捗状況や技術的な課題に応じて、工期が調整される可能性も否定できない。
エネルギー安全保障と脱炭素の「要」
青森 原発群の一つである東通原発は、日本のエネルギー政策上、極めて重要な位置を占める。同原発1号機(出力110万kW)は、発電時にCO2を排出しない原子力発電として、国の掲げる脱炭素目標の達成において中心的な電源と位置づけられている。
経済産業省が推進する「電源のベストミックス」において、再生可能エネルギーの不安定性を補完し、安定した電力供給を担う原子力は、エネルギー安全保障の強化に不可欠である。さらに、東通原発の敷地は、東北電力に加え、東京電力ホールディングスも一部を保有するという特殊性も持つ。計画中の2号機(約138.5万kW)の動向も含め、同地域は日本のエネルギー供給体制の要衝として、その将来が注目されている。
地元自治体の慎重姿勢と信頼回復
一方で、地元青森県内では、東日本大震災後の原発事故の記憶が色濃く残っており、再稼働に対する住民の安全対策への懸念は根強い。地元自治体からは、具体的な再稼働に対する公式な賛否表明は見られないものの、安全性の確保と十分な情報開示を求める慎重な意見が支配的である。
東北電力は、定期的な事業者ヒアリングを通じて、安全対策の進捗を報告しているが、再稼働への道筋は、技術的な適合性審査の合格だけでなく、地元社会の信頼回復にかかっていると言える。
東通原子力発電所の再稼働審査は、日本のエネルギー政策の未来を左右する試金石ともいえ、今後のNRCの判断と、それに対する地元の反応が引き続き注視される。(共同通信社、朝日新聞、日本経済新聞などを参考に構成)