【深度分析】「逆転の女王」登坂絵莉、次世代育成と社会貢献に懸ける新たな情熱

2025年11月24日

2016年リオデジャネイロオリンピック、女子レスリング48kg級で、試合終了間際の劇的な逆転劇により金メダルを獲得し、「逆転の女王」として一世を風靡した登坂絵莉氏（32）。2022年の現役引退から約3年が経過した今、彼女は指導者、そして社会起業家として、マットの上で培った不屈の精神を次世代へと繋ぐ活動に注力している。特に子ども向けレスリングプログラムの創設や、女性アスリートのキャリア支援における包括的なアプローチは、日本のスポーツ界におけるロールモデルとなりつつある。

指導者としての新たな挑戦：子ども向けプログラム「JOINTS」

登坂絵莉氏が現在、最も情熱を注いでいるのが、子ども向けレスリングプログラム「JOINTS」の運営だ。2025年7月に東京・目白で新規開講されたこのプログラムは、未就学児から小学生を対象とし、レスリングの技術指導はもちろんのこと、「スポーツの楽しさ」を伝えることに重点を置いている。

金メダリストとしての自身の経験に基づいた独自の指導メソッドを採用し、初心者でも安心してレスリングを始められるよう、25級のステップ制度を導入しているのが特徴だ。技術の習得だけでなく、運動能力の向上、そして何よりもレスリングを通じて「諦めずに最後までやり抜く精神」を育むことを目指している。

登坂絵莉氏は、「レスリングは身体だけでなく精神も鍛える最高のスポーツ。子どもたちには、勝利だけでなく、挑戦する喜びを感じてほしい」と語る。指導現場では、女子レスリング界の先輩である小原日登美元選手らとともに指導に当たるなど、次世代の才能を発掘・育成する活動に積極的に参画しており、その指導は技術面だけでなく、人間形成にも深く関わるものとなっている。

不朽のレガシー：リオ五輪と「逆転の女王」の精神

登坂絵莉氏の現役時代の功績は、日本のスポーツ史に深く刻まれている。リオ五輪での初出場金メダル獲得は、終盤まで劣勢だった状況をひっくり返した「執念の逆転劇」として、今なお多くのファンに語り継がれている。この勝利は、日本女子レスリングの強豪国としての地位を確固たるものにした。

また、五輪以前には、2013年から2015年にかけて世界選手権で3連覇を達成するなど、48kg級において世界最強の座を揺るぎないものとしていた。彼女が体現した「最後まで諦めない」という精神力は、引退後、指導者として子どもたちに伝えるべき最も重要な要素となっている。

引退後も、登坂絵莉氏はパリオリンピックのレスリング解説者として活躍し、その鋭い分析と競技への深い愛情を伝えた。現役時代に培った高い競技理解度は、次世代のレスリング選手を育てる上で、大きな強みとなっている。

女性アスリートの健康とセカンドキャリア支援

登坂絵莉氏の活動は、単なるレスリングの普及に留まらない。2022年に設立した一般社団法人スマイルコンパスを通じて、スポーツの楽しさを伝えるほか、特に女性アスリートのセカンドキャリア支援と健康問題の解決に尽力している。

現役時代、登坂絵莉氏は過酷な体重管理や、女性特有の健康問題（月経不順など）に直面した経験を持つ。その経験を踏まえ、若い女性選手たちが抱える課題に対し、技術指導だけでなく、体重管理やメンタルヘルス、そして女性特有の身体的課題に対する理解とサポートの重要性を強く訴えている。小原氏らとともに、若い選手たちに適切な知識を提供し、包括的なサポート体制を築くことは、彼女が掲げる重要なミッションの一つだ。

また、メディア出演や講演活動を通じて、引退後の女性アスリートが社会で活躍するための道筋を示し、セカンドキャリアの選択肢を広げるための啓発活動にも積極的に取り組んでいる。

家庭と社会貢献の両立

私生活においても、登坂絵莉氏は家庭と社会活動を充実させている。2020年に結婚し、2021年に男児を出産。引退後は、現役時代のような厳しいトレーニングから解放され、息子と公園で遊ぶ際に鉄棒で懸垂をするなど、家族との時間を大切にしながら、心身の健康を維持している。

「登坂絵莉」という名前が持つ影響力は、指導者、コメンテーター、そして社会貢献活動家として、多角的に広がりを見せている。リオ五輪で世界を驚かせた「逆転の女王」の粘り強さは、今、日本のスポーツ界の未来を支える力となり、女性アスリートがより長く、より輝ける環境を整備するための希望の光となっている。彼女の包括的な視点と情熱は、今後のスポーツ界の発展に欠かせない要素となるだろう。