2025年中国社会の転換：消費の「理性化」と若者の「内省化」

転換期迎える現代中国社会：消費の「理性化」と若者の「内省化」

― 2025年末、価値志向へシフトする中国人、雇用難とAI依存の狭間で ―

【上海、北京共同】2025年を終えようとする中国社会は、経済成長の減速と構造的な課題に直面しながらも、消費、旅行、社会生活のあらゆる面で急速な価値観の転換期を迎えている。かつての「価格至上主義」「集中型消費」から脱却し、現代中国人の行動様式は「理性化」「日常化」「即時化」を基調とする「価値志向」へとシフトしていることが、最新の消費動向や旅行トレンドの分析から浮き彫りになった。同時に、高止まりする若年層の失業率や、AI技術の浸透によるコミュニケーションの変化は、社会の深部に新たな課題を投げかけている。

I. 「後双十一」に見る消費行動の劇的変化

中国最大の商戦「双十一（独身の日）」後の消費動向は、中国人の支出計画が劇的に変化したことを示している。2025年末の消費分析によると、消費者は「集中囤貨（集中して買いだめ）」や「価格駆動」から、「按需購買（必要に応じて購入）」「価値導向（価値志向）」へと移行。衝動的な「湊単（複雑な条件を満たすための買い足し）」を避け、事前にリストを作成する「計画性支出」が主流となった。

特に注目すべきは、支出の重心が日常の高頻度剛需、すなわち生活日化用品や食品飲料に回帰している点だ。これは、消費者が派手な耐久消費財よりも生活の質を支える「日常の安心」を重視し始めたことを示唆する。

また、即時配達を可能にする「即時小売」の台頭により、「いつでも購入」「即時満足」を求める傾向が強まり、集中囤貨の必要性が薄れている。さらに、ペット用品やスマートデバイスなど、情緒的な満足やテクノロジーによる生活向上を目的とした支出が著しく増加しており、消費が「モノ」から「体験」や「感情的価値」へと多角化している実態が確認できる。

II. 「安全」を優先する出境旅行と目的地分散

国際交流の側面でも、中国人の行動には変化が見られる。2025年の出境旅行市場では、日本、韓国が依然として人気を集める一方、旅行先の「去中心化（分散化）」が進んでいる。

特筆すべきは、旅行先選定における「安全性の優先」である。タイなど一部の伝統的な人気観光地は、治安への懸念から中国人観光客の減少が顕著だ。代わって、マレーシア、シンガポールなどの東南アジア新興国や、ビザ免除政策が奏功した中央アジア、高加索（アゼルバイジャン、アルメニア、グルジア）といった新たな目的地への人気が急上昇している。

旅行の動機も「文化的体験」や「リラックス」が上位を占めており、単なる観光地巡りではなく、精神的な充足を求める志向が強まっている。免簽（ビザ免除）政策は、中国人が世界を見る窓を広げる重要な推進力となっている。

III. 若年層の圧力とAIによる「情緒的サポート」

社会構造の変化は、若年層に最も重い圧力をかけている。2025年上半期、青年失業率は約18.9%と高止まりし、経済の構造転換や不動産危機の影響で、構造的な雇用ミスマッチが深刻化している。

こうした経済的な不確実性は、若者の生育観にも影響を与えている。多くの若者が、経済的負担やキャリア形成への懸念から、出産を控えたり、大幅に遅らせたりする傾向にある。

一方、彼らのコミュニケーションと情緒的な生活は、短動画とAIによって大きく変容している。AIは単なるツールではなく、「無圧力の情緒的パートナー」として機能し始めている。AIチャットボットや仮想キャラクターとの日常的な対話は、若者が現実の人間関係で抱えるストレスや負の感情を打ち明ける場を提供している。

しかし、このAIへの依存は、一部で「言語催眠効果」として懸念されている。AIが生成する「最適化された」言語に慣れることで、人間本来の複雑な感情表現や創造的な思考が希薄化するのではないかという警鐘も鳴らされている。

2025年末、中国人は経済の成熟と技術革新の波を受け、より内省的で、価値を重視する社会へと歩を進めている。日本企業や国際社会にとって、この巨大な市場と社会が示す新たな価値観の方向性を正確に把握することが、今後の対中戦略の鍵となるだろう。