倍賞千恵子×山田洋次監督『TOKYOタクシー』終活の旅路と木村拓哉との21年ぶり共演
ニュース要約: 国民的女優・倍賞千恵子(84)と山田洋次監督(94)の最新作『TOKYOタクシー』が公開。終活の旅路につくマダム(倍賞)と寡黙な運転手・宇佐美(木村拓哉)の21年ぶり共演が話題だ。限られたタクシー空間で、戦争や家族の記憶を語る普遍的な人間愛を描き、時代と共に変化するTOKYOタクシーの現実も映し出す。
国民的女優・倍賞千恵子が映す「終活」の旅路:山田洋次監督最新作『TOKYOタクシー』と時代の変遷
【東京】 国民的女優、倍賞千恵子(84)が、長年の盟友である山田洋次監督(94)の最新作『TOKYOタクシー』で、再び深遠な人間ドラマを紡ぎ出している。11月21日に公開された本作は、終活の一環として東京から神奈川へと向かう85歳のマダム・高野すみれと、寡黙なタクシー運転手・宇佐美浩二(木村拓哉)との出会いを描く。倍賞が半世紀以上にわたり体現してきた「庶民の生活」と、現代社会の重要なインフラであるtokyoタクシーが、時代を超えた人間模様の舞台として交錯する。
21年ぶりの共演、限られた空間で交差する人生
山田監督の91作目となる本作で、倍賞が演じるのは、東京・柴又から葉山にある高齢者施設への移送を依頼する高野すみれ。この旅路はすみれの人生の終活であり、彼女は運転手に対して、戦争や暴力的な夫に翻弄された波乱万丈な過去を語り始める。
特筆すべきは、倍賞と木村拓哉の21年ぶりとなる共演だ。撮影の多くは、風景を映し出すLEDウォールに囲まれたスタジオ内のタクシー車内という、極めて限られた空間で行われた。この密室劇について、倍賞は「ステージにいる(ような)木村くんからは、ものすごい勢いや力を感じました。でも今回の浩二さんは、一つの家庭を持っているタクシー運転手さんの役。現場では変化している木村くんを目にして、私も『変わらなきゃ』と思いながら一緒にお仕事をさせていただきました」と語っている。
倍賞と山田監督の信頼関係は、『男はつらいよ』シリーズ以来、長きにわたる。倍賞は「監督の人間を見る目が好き。ピントのこない人まで全員、生きた人間として映しています」と述べ、監督の深い洞察力への敬意を表す。すみれという役を通じて、倍賞自身も「今という時間をね、とても大切にしたいなって最近思います」と、年を重ねる中で現在の瞬間を慈しむ重要性を再認識させられたという。
時代を映す「窓」:変動するTOKYOタクシーの現実
映画の中でタクシーが、すみれの人生を巡る回想の舞台装置として機能する一方で、現実のtokyoタクシー業界は、社会経済の大きな変動に直面している。
2025年現在、東京の「特別区・武三交通圏」では、タクシーの初乗り運賃が改定され、多くの事業者で1.096kmまで500円となっている。これは、物価高騰、人件費の上昇、そして国が推進する最低賃金1500円目標など、様々な経済的要因が背景にある。加算運賃も255mごとに100円と設定され、深夜・早朝(22時から5時)には2割増しが適用されるなど、利用者の負担も増しているのが実情だ。
タクシーは、倍賞千恵子が演じてきた庶民の生活を支える重要な交通インフラであり続けるためには、これらのコスト増を反映せざるを得ない。映画『TOKYOタクシー』が描く人生の終焉の旅路は、ある個人の歴史を巡るものだが、その背景には、時代と共に形を変えざるを得ない社会構造と、それを支える公共サービスの苦悩が透けて見える。
昭和から令和へ、普遍的な人間愛を描き続ける
倍賞千恵子は、1961年のデビュー以来、『男はつらいよ』のさくら役として国民的な支持を得てきた。彼女のキャリアは、昭和、平成、令和と、日本の庶民的な生活や人間模様を象徴的に映し出している。
『TOKYOタクシー』は、単なるロードムービーではない。限られた空間で交わされる会話を通じて、戦争の記憶や家族の軋轢など、時代を超えて普遍的な人間の痛みと絆を描き出す。そして、その舞台となるtokyoタクシーは、常に変わりゆく都市の風景を、静かに、しかし確実に運び続けている。
倍賞の「今という時間を大切にしたい」という静かな決意は、激変する社会の中で、私たち一人ひとりが自己の人生を見つめ直すための問いかけとなっている。映画の公開は、倍賞千恵子という偉大な女優の集大成であると同時に、現代のtokyoタクシーが担う役割の重みを再認識させる機会となるだろう。
(文化部 映画担当記者 S.K.)