【米感謝祭2025】インフレ下の「過酷な連休」：消費者は割引依存、移動は過去15年で最悪の混雑に

【米感謝祭2025】インフレと混乱の狭間で迎えた「サンクスギビング」：消費者は慎重、移動は過去最悪の混雑に

（ニューヨーク、東京発 共同通信）

2025年の米国の祝日サンクスギビングデー（感謝祭）は11月27日を迎え、翌日のブラックフライデーから本格的なホリデー商戦が幕を開けた。しかし、今年のthanksgiving 2025は、高止まりするインフレと根強い経済的不安が消費行動を支配する一方、連休中の帰省ラッシュは過去15年で最も激しい航空混雑となり、多くの旅行者が「悪夢」とも形容される混乱に直面した。伝統的な家族の集いの裏側で、米社会の経済的脆弱性と文化的な変容が鮮明に浮き彫りとなっている。

帰省ラッシュ「過去15年で最悪」：政府閉鎖の余波も

米国の感謝祭は、家族や友人が集まり、感謝の意を示す重要な時期である。しかし、今年の移動は記録的な混雑に見舞われた。11月25日以降、約36万便が運航され、16.9万人以上が空路で移動したと見られている。この移動規模は過去15年で最高水準に達した。

特に深刻なのは遅延の多発だ。直前の連邦政府の一時的な閉鎖が航空交通管制に制約をもたらした影響もあり、ニューヨーク（JFK/LGA/EWR）、ダラス（DFW/DAL）などの主要空港では天候不良も重なり、大規模な遅延が拡大した。旅行者は早めの空港到着や軽装での移動を推奨される異例の事態となり、感謝祭の「家族団らん」の機会を得るための道のりは、かつてない試練となった。

経済不安を割引で克服：ブラックフライデーの複雑な心理

サンクスギビングデー翌日のブラックフライデー（11月28日）は、年末商戦の試金石となる。オンライン小売業者の約9割が前年比で売上が増加したと報告するなど、大幅なディスカウントが購買意欲を喚起した。

しかし、消費者の心理は依然として慎重だ。ミシガン大学の調査では11月の消費者信頼感指数が過去最低水準に達しており、消費者の69%が来年の失業率上昇を懸念している。デロイトの予測でも、ブラックフライデーとサイバーマンデーの支出は前年比で4%減少する見通しだ。

この矛盾を読み解く鍵は「割引への依存」にある。消費者の96%がブラックフライデーを認識し、79%が買い物予定だと回答しているが、それはインフレ（消費者物価前年比3%上昇）による生活費の圧迫を背景に、「割引」や「限定セール」に飛びつかざるを得ない状況を示している。さらに、経済的不安の表れとして、決済手段としてKlarnaやAffirmなどの「今すぐ購入・後払い」（BNPL）サービスを利用する消費者が半数に上る見込みだ。

小売業者は信頼性の向上に注力しているものの、消費者の半数しか小売業者の価格を「完全に信頼している」と回答しておらず、特にベビーブーマー世代の信頼感の低さが目立つ。thanksgiving期間中の販売データは需要の強さを示したが、その裏には根強い経済的脆弱性が存在している。

食卓の変貌：ターキーから「プラント・ベースド」へ

伝統的な感謝祭の食卓にも大きな変化が見られる。近年、健康志向や環境意識の高まりから、従来のローストターキーに代わり、「プラント・ベースド」の食事が急速に浸透している。

2025年のトレンドを牽引したのは、キノコや栗、ハーブをパフペストリーで包んだ「マッシュルーム・ウェリントン」だ。これは単なる代替品ではなく、ターキーに負けない見た目のインパクトと深いウマミを持つメインディッシュとして、食卓の主役へと昇華している。

また、サイドディッシュの進化も顕著だ。マッシュポテトは、乳製品の代わりに濃厚なオーツミルクや高品質のオリーブオイルを使用し、軽く豊かな風味を実現。グリーンビーン・キャセロールも栄養酵母を使ったクリーミーな乳製品フリーへと変換され、伝統的な風味を保ちつつ動物性製品を排除する工夫が凝らされた。サンクスギビングデーの食卓は、多様な価値観を反映する場へと変貌を遂げている。

日本国内でも浸透する感謝祭文化

米国発祥のthanksgiving文化は、日本国内でも定着の兆しを見せている。高級レストランでは、ロウリーズ・ザ・プライムリブが11月27日限定で伝統的なローストターキーを主役としたコースを提供した。また、ハードロック ジャパンなど外資系レストランチェーンもサンクスギビング スペシャルメニューを展開し、日本の消費者にアメリカのホリデー文化を体験する機会を提供した。

さらに、キャンプ場での「THANKSGIVING CAMP 2025」や、横浜でのダンス＆音楽フェスなど、イベント形式での展開も多様化しており、感謝祭が単なる食文化ではなく、秋の感謝を表現するイベントとして日本社会に浸透しつつあることが示されている。