東大病院医師が300万円収賄で逮捕—国立大病院「みなし公務員」倫理崩壊の衝撃
ニュース要約: 東大病院の整形外科医師が、医療機器メーカーから約300万円の賄賂を受け取り、便宜を図った収賄容疑で逮捕された。国立大学病院の「みなし公務員」による初の事件であり、医療機器選定の公平性、そして日本の医療倫理と産学連携のあり方を根本から問い直す衝撃的な事件として、捜査が続いている。
東大病院医師が収賄容疑で逮捕、医療機器メーカーから300万円―医療倫理問われる事態に
国立大学病院で初の「みなし公務員」収賄事件
東京大学医学部附属病院(東大病院)の整形外科医師・松原全宏容疑者(53)が、医療機器メーカーから現金約300万円を受け取ったとして、警視庁に収賄容疑で逮捕された。国立大学病院における医療倫理の根幹を揺るがす事件として、医療界に大きな衝撃が走っている。
警視庁の調べによると、松原容疑者は2021年から2023年にかけて、東京・新宿区の医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」の元社員・鈴木崇之容疑者(41)から、複数回にわたり現金を受け取った疑いが持たれている。その見返りとして、同社が販売する医療機器を優先的に使用するなどの便宜を図ったとされる。
「寄付金」名目で不正資金を受領
事件の手口は巧妙だった。松原容疑者は当初、「寄付金」という名目で合計80万円を東大病院の専用口座に送金させ、そのうち約70万円を個人で受け取っていた。しかし、警視庁の捜査が進むにつれ、実際の賄賂の総額は約300万円に上ることが判明した。別の捜査線では、少なくとも150万円以上を受け取っていたとの情報もある。
受け取った資金の約半分は、電化製品の購入など私的な用途に充てられていたことも明らかになっている。東大病院という日本を代表する医療機関において、医療機器の選定という公平性が求められる職務の対価として、個人的な利益を得ていた実態が浮き彫りになった。
「みなし公務員」として厳格な法的責任
松原容疑者は国立大学法人の職員として「みなし公務員」の立場にあり、一般的な収賄罪よりも厳格な法的枠組みが適用される。国立大学の独立行政法人化後も、公共性の高い業務に従事する職員には、公務員と同等の倫理観と法的責任が求められているためだ。
東大病院は、救命救急医療、がんゲノム医療、臓器移植、ロボット手術など、最先端医療を提供する日本屈指の医療機関である。2025年現在も、手術支援ロボット「ダヴィンチ」や低被ばく高画質CT装置、AI搭載血管撮影装置など、先端医療機器の導入を積極的に進めている。
このような環境下で、医療機器の選定に強い裁量権を持つ医師が、特定メーカーとの間で不正な関係を構築していたことは、医療の公平性と信頼性を根底から揺るがす問題だ。
構造的問題の可能性も
今回の事件は、単なる個人の逸脱行為にとどまらない可能性がある。医療機器業界と大学病院の関係は、共同研究や技術開発において不可欠な面もあるが、その境界線が曖昧になりやすいという構造的課題を抱えている。
東大病院は医工連携を推進し、工学系研究科との共同研究を通じて新医療機器の開発にも取り組んでいる。2025年2月には「東大病院先端医療シーズ開発フォーラム2025」も開催され、産学連携の重要性が強調されている。しかし、正当な協力関係が不正な利益供与に転じる危険性を、今回の事件は示している。
警視庁は現在、両容疑者の認否を明らかにしておらず、継続的かつ常習的な不正行為があったかどうかを含め、さらに捜査を進めている。東大病院側も内部調査を開始し、再発防止策の検討を急いでいる。
日本の医療界全体にとって、医療倫理と産学連携のあり方を再考する契機となる重大な事件である。