インフレ下の「デフレの雄」サイゼリヤ:ミラノ風ドリア300円死守の裏側と世界で稼ぐ力
ニュース要約: 多くの外食チェーンが値上げする中、サイゼリヤは「ミラノ風ドリア」300円など価格据え置きを継続。その背景には、メニュー絞り込みによる徹底した効率化と、営業利益の6割以上を占めるアジアを中心とした海外事業の急成長がある。国内のインフレリスクを海外収益で吸収する、持続可能な「サイゼリヤモデル」に迫る。
インフレ下の「デフレの雄」戦略:サイゼリヤ、価格据え置きの深層と世界で稼ぐ力
導入:物価高騰を跳ね返す「サイゼリヤ」の異例の戦略
2025年11月、日本経済は原材料費高騰と円安によるインフレ圧力に晒され、多くの外食チェーンが相次いで値上げを断行している。その中にあって、イタリアンファミリーレストランの最大手、サイゼリヤ(本社:埼玉県)が打ち出す戦略は異彩を放っている。看板メニューである「ミラノ風ドリア」300円を筆頭に、全メニューの価格据え置きを継続しているのだ。
10月15日の2025年秋冬メニュー改定では、「タラコフォッカチオ」や冬向けの「ビーフステーキ」などの新顔を投入しつつも、低価格帯を維持。この「コスパ最強」を貫く姿勢は、若年層や家族連れだけでなく、「サイゼリヤ飲み」を楽しむ層からも熱狂的な支持を集めている。しかし、この強気の価格据え置き戦略の裏側には、徹底した効率化と、国内市場の変動リスクを吸収するグローバル戦略が隠されている。
第1章:冬の話題を独占する新メニューと「サイゼリヤ飲み」の潮流
今季のサイゼリヤのメニュー改定で特に注目を集めているのが、SNSでも話題沸騰の「タラコフォッカチオ」である。濃厚なタラコチーズソースと焼きたてのフォッカチオの組み合わせは、実食レビューでも「フォッカチオシリーズの中で人気上位」と高評価を得ている。また、冬のメインディッシュとして、赤身の旨みが際立つ「ビーフステーキ」(991円/税込1,090円)が登場。地域によっては「ラム(仔羊)のランプステーキ」を提供するなど、地域特性を考慮したラインナップも特徴だ。
こうした新メニューの投入は、消費者の来店動機を高めつつも、サイゼリヤの根幹である「低価格」を揺るがすことはない。特に、エスカルゴのオーブン焼きや辛味チキンなどを組み合わせ、1,000円前後で満足度の高い食事を楽しむ「サイゼリヤ飲み」は、インフレ時代における賢い消費行動として定着。無料のオリーブオイルやチーズを活用した「味変」の裏技もSNSで共有され、客単価を抑えつつも、客数を増やす力強い集客装置となっている。
第2章:メニュー絞り込みで実現する「価格据え置き」の秘密
多くの競合他社が値上げに踏み切る中、サイゼリヤが低価格を維持できる背景には、経営陣による徹底したインフレ対策と効率化戦略がある。その核心は「メニューの絞り込み」だ。
かつては多種多様なメニューを提供していた同社だが、近年は人気メニューに資源を集中させることで、調理工程の簡素化、食材の在庫管理の効率化を図っている。これは、ファミレスでありながら、ファストフード的な運営スタイルへのシフトを意味する。選択肢を限定することで、人件費や廃棄ロスを削減し、高騰する原材料費を吸収しているのだ。
この戦略は功を奏し、2024年2月期第2四半期の決算では増収増益を達成。他社が高級路線や特別感を追求する「ファミレス二極化」が進む中で、サイゼリヤは「低価格・高品質」という独自の立ち位置を堅持し、消費者の支持を固めている。しかし、一部からは「メニューがしょぼくなった」との不満も聞かれ、今後の持続可能性には、効率化と顧客満足度のバランスが問われることになる。
第3章:増収増益を牽引するグローバル戦略と1,000店舗体制への道
サイゼリヤの好業績を支えている最大の要因は、国内の効率化だけではない。アジアを中心とした海外事業の急成長だ。
2025年8月期の売上高は過去最高を更新したが、その営業利益の6割以上は海外事業で稼ぎ出されている。海外売上は全体の約35%を占める903億円に達し、中国、香港、台湾、シンガポールといったアジア圏でサイゼリヤの「手頃な価格で本格的なイタリアン」のコンセプトが浸透している。特に中国市場は拡大が続いているが、近年は既存店売上が苦戦するなど、現地ニーズへの適応が課題として浮上している。
これに対し、サイゼリヤは2025年にベトナム・ホーチミン市へ初出店するなど、東南アジア市場への新規展開を加速。2026年8月期に向けては、海外で77店舗の純増を計画しており、将来的にはアジア全域で1,000店舗体制を目指すという。国内の「デフレの雄」として価格据え置きを堅持しつつ、海外での出店加速とローカライゼーションの強化によって収益を上げるという、ハイブリッドな成長戦略が、同社の未来を牽引している。
結論:持続可能な「サイゼリヤモデル」の確立へ
サイゼリヤは、国内ではインフレ対策として徹底した効率化を進め、消費者の節約志向に応え続けている。一方、海外では成長市場の獲得を着実に進め、グローバル視点での生産・物流・購買網を構築することで、国内事業の変動リスクをカバーしている。
「タラコフォッカチオ」のようなヒットメニューを生み出しつつ、ミラノ風ドリアの価格を死守する同社の戦略は、単なる低価格競争ではなく、経営資源を最適化した「持続可能なサイゼリヤモデル」の確立を目指すものと言える。今後の日本経済の行方と、アジア市場でのさらなる飛躍に、引き続き注目が集まる。