エムバペなきPSGの勝算:ルイス・エンリケが築く「システムサッカー」と欧州CL突破
ニュース要約: エムバペ退団後のPSGは、ルイス・エンリケ監督のもと、スター依存から脱却し「システムサッカー」を確立。仏リーグ首位を独走し、欧州CLの「死の組」も突破した。本稿では、攻守のバランスが取れた戦術転換の真髄と、李康仁ら新世代が牽引する欧州の頂点への挑戦を深掘りする。
【深層分析】「エムバペ後」のPSG:ルイス・エンリケ体制で築く「システムサッカー」の勝算
仏リーグ首位独走の盤石な戦績と、欧州CL決勝トーナメント進出の裏側
(パリ発 2025年11月27日 共同通信)
フランスの絶対王者、パリ・サンジェルマン(PSG)は、2024-2025シーズンにおいて、大黒柱であったキリアン・エムバペ選手(現レアル・マドリード)の退団という劇的な変化を乗り越え、国内外で安定した戦績を収めている。国内リーグでは首位を独走し、欧州チャンピオンズリーグ(CL)でも「死の組」を突破して決勝トーナメント進出を決めた。
しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。スター選手に依存しない「システム主導型」への戦術転換を断行したルイス・エンリケ監督の指導のもと、チームは新たなアイデンティティを確立しつつある。本稿では、現在のPSGの戦績、戦略の転換、そして今後の欧州の頂点を目指す上での課題を深く分析する。
第1章:仏リーグの絶対的優位と攻守のバランス
PSGは2025年11月27日現在、2024–2025シーズンの法甲リーグにおいて、9勝3分1敗の勝ち点30を積み上げ、首位を堅守している。2位以下に6~8ポイント差をつけ、圧倒的な優位性を誇っている状況は、クラブが過去数シーズンにわたり築いてきた国内での支配力を改めて示すものだ。
特筆すべきは、その攻守のバランスである。チームは平均2.08点の得点力を維持しつつ、平均失点0.85点というリーグ最少クラスの堅固な守備を誇る。過去数年、PSGは攻撃力に頼る傾向が強かったが、今シーズンは守備陣と中盤の連動が強化され、全体の戦術規律が向上した。全シーズンを通してイエローカードの枚数が40枚とリーグ最少であり、レッドカードもゼロという事実は、エンリケ監督が求める高い戦術遂行能力と規律の徹底が浸透している証左と言えるだろう。
直近5試合で4勝1分という安定した戦績は、チームが主要な戦術転換期にありながらも、国内での競争力を一切損ねていないことを証明している。彼らは、今シーズンも「法甲の絶対王者」としての地位を揺るぎないものにしている。
第2章:欧州CL「死の組」突破の試練
国内での安定とは裏腹に、PSGの欧州の戦いは緊張感に満ちたものとなった。過去の欧州CLで優勝経験を持つPSGは、今シーズンも優勝候補の一角と目されていたが、グループステージでは厳しい戦いを強いられた。
最終盤の重要な局面では、強豪マンチェスター・シティを相手に4対2で勝利を収め、さらにPSV(燕豪芬)との試合を1対1で引き分けることで、勝ち点を上積み。最終的に、他のライバルチームとの対戦成績(ヘッド・トゥ・ヘッド)の優位性により、グループ2位という形で決勝トーナメント(R16)への進出を辛くも果たした。
この「死の組」からの脱出は、かつてメッシ、ネイマール、エムバペという「トリデンテ(三叉の矛)」に頼り切っていた時代とは異なり、チーム全体の粘り強さと、エンリケ監督による戦術の柔軟性が生んだ結果と言える。特に、李康仁選手やゴンサロ・ラモス選手といった新世代のコアプレイヤーが重要な試合で得点に絡み、チームを牽引したことは、今後の欧州での戦いを見据える上で大きな希望となる。
第3章:「スター依存」からの脱却:ルイス・エンリケ戦術の真髄
PSGの今シーズンの最大のテーマは、「ポスト・エムバペ」時代における戦術の再構築であった。エンリケ監督は、過去の「個人のひらめき」に依存した戦術から脱却し、「多核駆動、全員参加」を掲げるシステムサッカーへと舵を切った。
この戦術転換の核心は、以下の二点に集約される。
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ポジション流動性と「偽9番」の活用: 攻撃陣の役割を固定せず、例えば、新加入のクヴァラツヘリア選手や李康仁選手がサイドから中央へ、あるいはゴンサロ・ラモス選手が前線でポストプレーに徹するなど、役割を柔軟に切り替える。これにより、相手守備陣は的を絞りにくくなり、攻撃は予測不可能な広がりを持つようになった。
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ハイプレスと攻守の高速切り替え: 南米サッカーの要素を取り入れたハイプレス戦術を導入。ボールを失った瞬間に前線から激しくプレスをかけ、相手の出足を奪う。この素早い攻守の切り替え(トランジション)によって、ショートカウンターの機会が増加し、少ないチャンスから効率よく得点を奪うことが可能になった。
かつては「銀河系軍団」と称された豪華なタレントが、今や「規律」と「連動」を重視するシステムの一部として機能している。このエンリケ監督の戦術調整が、PSGの攻防両面の安定に大きく寄与していることは間違いない。
第4章:冬の移籍市場と「元エース」の残影
現在のPSGを取り巻くもう一つの大きな話題は、冬季移籍市場の動向と、元エースであるエムバペ選手との法的な係争である。
エムバペ選手は既にレアル・マドリードで新たなキャリアを歩んでいるが、PSGは彼に対し、契約上の誠実義務違反や、高額な移籍金獲得の機会損失(サウジアラビアのアル・ヒラルからの3億ユーロのオファーを拒否したことなど)を理由に、4.4億ユーロ(約700億円)もの巨額の賠償を請求している。この訴訟問題は2026年2月に裁判所の審理が予定されており、PSGの財政とイメージに長期的な影響を及ぼす可能性がある。
一方、PSGの冬季移籍戦略は、エムバペ時代の豪華絢爛な補強とは一線を画している。クラブは、怪我人が出た場合でも、まずは内部の若手育成や既存戦力の活用を優先する保守的な姿勢を示している。
しかし、水面下では補強の噂も存在する。特に注目されているのは、マンチェスター・ユナイテッドのウイング、マーカス・ラッシュフォード選手への関心だ。バルセロナが3500万ユーロでの獲得を画策しているとされる中、PSGはそれを上回る5000万ユーロのオファーを準備していると報じられている。これは、PSGが依然として、李康仁選手やラモス選手らと共に、前線に高いスピードと決定力を持つ選手を求めていることの表れだろう。
結び:欧州の頂点へ向けたPSGの挑戦
PSGは、エムバペ選手という絶対的エースを失ったにもかかわらず、国内では揺るぎない地位を保ち、欧州の舞台でも厳しい試練を乗り越えた。これは、ルイス・エンリケ監督が推進する「システム主導型」のサッカーが、一定の成果を上げていることの証明である。
しかし、真の評価が下されるのは、来年春の欧州CL決勝トーナメントだ。PSGが欧州の頂点を目指すためには、戦術の成熟度を高め、重要な局面での決定力をさらに磨く必要がある。李康仁選手、ラモス選手、そしてデンベレ選手らが構成する新たな攻撃のコアが、世界最高峰の舞台でいかに機能するか。PSGの挑戦は、ここからが正念場を迎える。