高市首相「台湾有事は存立危機事態」明言:集団的自衛権行使で日中外交は緊迫
ニュース要約: 高市首相は国会で、台湾有事の際には「存立危機事態」として集団的自衛権を行使し、米軍と武力行使に踏み切る可能性を明言。戦後安保政策の歴史的転換点となる一方、中国は強く反発し、駐日大使に厳重抗議。日本の外交・防衛戦略に大きな波紋を広げています。
高市首相「台湾有事は存立危機事態」明言の波紋 — 集団的自衛権の現実化と日中外交の最前線
2025年11月、東アジアの安全保障環境が緊迫の度を増す中、高市早苗首相は国会答弁で、台湾有事が発生した場合、日本が直接攻撃を受けていなくとも集団的自衛権を行使し、米軍と共に武力行使に踏み切る可能性を明確に認めました。この「存立危機事態」という法的枠組みの適用をめぐる発言は、戦後日本の安全保障政策の転換点として、国内外に決定的な波紋を広げています。
1. 安保政策の転換点:「存立危機事態」の現実化
高市首相が踏み込んだのは、「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」に規定される「存立危機事態」の適用範囲です。この定義は「日本と密接な他国への武力攻撃により、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」を指します。
これまで歴代政権は、台湾有事への適用について「総合的に判断する」として明言を避けてきました。しかし、高市首相は衆院予算委員会において、立憲民主党の岡田克也議員の質問に対し、「(中国による台湾・フィリピン間のバシー海峡などの)海上封鎖を解くために米軍が来援し、それを防ぐために何らかの武力行使が行われるといった事態も想定される」と具体的に答弁しました。
これは、台湾有事が日本のシーレーンや安全保障に直結する「日本有事」となり、自衛隊が武力行使を伴う防衛出動を命じられる可能性を、日本の最高指導者が初めて公に認めた瞬間です。集団的自衛権の行使が、絵空事ではなく現実の選択肢として提示されたことは、日本の防衛戦略に大きな転換を迫るものです。
2. 国内の懸念:非核三原則と「一つの中国」の整合性
高市首相の積極的な姿勢に対し、国内政局では野党からの批判が強まっています。立憲民主党の岡田克也氏らは、政府が「存立危機事態」を広範に認定することへの懸念を示し、内閣の裁量が過度に拡大すれば、日本が望まない軍事対軍事の悪循環に巻き込まれるリスクを指摘しています。
また、この議論の根底には、日本が長年堅持してきた平和主義の原則との整合性の問題があります。具体的には、日本が「持たず、作らず、持ち込ませず」とする非核三原則の堅持と、武力行使の可能性を拡大する安保政策とのバランスです。さらに、1972年の日中共同声明で確認された「一つの中国」原則との整合性も問われており、日本の対中外交の土台が揺るぎかねない状況です。
「存立危機事態」の認定には内閣の判断と国会の承認が必要とされますが、その判断基準の曖昧さが、今後の安保政策における最も重要な論点となっています。
3. 中国の猛反発と金杉憲治大使の苦境
高市首相の発言に対し、中国側は即座に、極めて強硬な反応を示しました。中国外務省は、駐中国大使である金杉憲治氏を呼び出し、厳重な抗議と発言の撤回を要求しました。中国外務省は、日本の武力介入を「侵略行為とみなし、撃退する」と警告し、高市首相の発言を「極めて危険で挑発的」と非難しています。
この緊張の高まりは、外交最前線に立つ金杉大使にとって極めて厳しい状況を生み出しています。日本の外交当局は、対話による関係改善を目指してきたものの、今回の発言がその取り組みに冷や水を浴びせる形となりました。
さらに、日中間の摩擦激化は、実体的なリスクにも繋がっています。中国への渡航自粛や注意喚起が強まる可能性があり、日系企業や在留邦人の安全確保が喫緊の課題として浮上しています。経済面でも、台湾海峡の緊張はサプライチェーンの混乱や貿易・投資への悪影響を及ぼすことが懸念されます。
4. 結論:東アジアの安定に向けた日本の針路
高市首相の「存立危機事態」発言は、台湾有事を「日本有事」と捉え、現実的な安全保障を構築しようとする強い意志の表れと言えます。しかし、それは同時に、中国との軍事的な緊張を高め、地域の不安定化を招くリスクも孕んでいます。
日本国民は、この法的・外交的な緊張状態を単なる政治論争として片付けるのではなく、「存立危機事態」の適用基準、集団的自衛権行使の限界、そして平和国家としてのアイデンティティを、改めて深掘りして議論する必要があります。2025年11月、日本の安全保障政策は、東アジアの安定と自国の存立を両立させるという、極めて困難な道筋を歩み始めています。