韓国、生活保護費を過去最大7%引き上げへ(2026年度):受給者拡大と不正受給対策の光と影
ニュース要約: 韓国政府は、高物価対策として2026年度の生活保護費(生計給与)を過去最大幅となる最大7%引き上げる。受給基準緩和で約4万人が対象に加わる見通し。一方、財政効率化のため、データ連携を強化し、不正受給を徹底的に防止するシステムも同時に運用強化する。
韓国、2026年度「生活保護費」を過去最大幅で引き上げへ 高物価対応で受給者拡大、不正防止対策も強化
【ソウル=共同】 高物価と経済格差の拡大に直面する韓国において、政府は低所得層の生活安定を図るため、基礎生活保障制度(日本の生活保護に相当)の給付水準を大幅に引き上げる方針を固めた。2026年度の「生活保護費」(生計給与)基準は過去最大水準で増額され、特に単身世帯や多人数世帯の保障が強化される見通しだ。一方で、福祉予算の効率性を確保するため、生活保護費の不正受給を防ぐ管理システムの高度化も同時に進められている。
2026年度、最大7%引き上げへ 受給対象者4万人増の見通し
韓国保健福祉部が発表した計画によると、2026年度の基礎生活保障制度における生計給与基準は、基準中位所得の上昇に伴い、前年度比で約6%から7%の大幅な引き上げとなる。
例えば、単身世帯の生計給与額は2025年の約76万ウォン(約8万4千円)から、2026年には約82万ウォン(約9万円)へと約7%増額される。また、4人世帯では約195万ウォンから207万ウォンへと増額され、低所得層の購買力維持を支援する。この給付水準の引き上げは、近年の急激な物価高騰を受け、「人間らしい生活の保障」という制度本来の目的を達成するための緊急措置と位置づけられている。
政府は、この給付基準の引き上げと、受給基準の緩和により、新たに約4万人の国民が基礎生活保障の対象となることを予測している。特に注目されるのは、受給申請の障壁となっていた「扶養義務者基準」の大幅な緩和だ。扶養義務者の年間所得基準が1億3千万ウォン、財産基準が12億ウォンにそれぞれ引き上げられるほか、重度障害者が含まれる世帯に対しては扶養義務者基準の適用が除外される。これにより、従来の制度では援助を受けられなかった「福祉の死角地帯」にいる人々への支援が可能となる。
高物価で「生活保護費 申請」が急増、予算規模も拡大
近年の韓国では、高金利・高物価のダブルパンチにより、生活保護費の申請者が急増している。これに対応するため、政府は2025年度の基礎生活保障予算を前年比5.0%増とするなど、支援規模を拡大してきた。
申請手続きは、申請者が行政福祉センター(日本でいう市町村の福祉窓口)に申し出た後、公務員が直接世帯を訪問し、所得・財産状況や住居状況を調査する。この調査と審査には約3カ月を要するが、決定が下されれば申請日に遡って給与が支給される仕組みだ。
政府は、給付の拡充と並行して、受給者の自立支援にも力を入れている。条件付き受給者に対する勤労活動への参加条件の履行管理を強化するなど、単なる給付に留まらず、社会復帰を促す政策も同時に推進している。
財政効率化のため「生活保護費 不正受給」対策を強化
一方で、福祉予算の急速な増加は、公的資金の効率的な運用と公正な分配に対する国民の関心を高めている。韓国政府は、給付拡大の裏側で、生活保護費の不正受給を徹底的に防止するシステムを強化している。
不正受給対策の核心は、社会保障情報システム「幸福e音」を中心としたデータ連携の強化だ。特に、高級自動車を他人名義で登録したり、高額な金融資産を隠蔽したりする悪質なケースを摘発するため、自動車保険の義務加入情報や金融機関からの追加的な金融財産情報を活用し、受給資格の確認を厳格化している。
また、地方自治体(地自体)による定期的な現地調査に加え、国民からの通報を奨励する「報奨金制度」も運用されている。不正受給の通報者に対しては、秘密・身分・身辺の保護が徹底され、公正な福祉の実現に向けた社会全体の監視体制が構築されている。実際、このシステムを通じて、既に年間数千億ウォン規模の不適正な給付が未然に防止されているという。
専門家は、給付基準の緩和と拡大は低所得層の生活基盤を強化する上で不可欠な措置であるとしつつも、「不正受給の事例にのみ集中すれば、必要な福祉政策が後退する恐れがある。福祉伝達体系を高度化し、事前・事後モニタリングを強化することで、公正性を確保しつつ、支援が必要な人々には迅速に支援が届くようにすることが重要だ」と指摘している。
韓国政府は、今回の制度改革を通じて、社会安全網を強化し、経済的な困難に直面する国民の「人間らしい暮らし」の保障を確固たるものにすることを目指している。しかし、増大する財政負担と、制度の持続可能性をどう両立させていくか、今後の運営が注視される。