COP30決裂で「1.5度目標」危機:異常気象常態化と日本の脱炭素戦略
ニュース要約: 2025年のCOP30は化石燃料脱却の合意に至らず、パリ協定の1.5度目標達成が危ぶまれている。国際協調が停滞する中、日本では異常気象が常態化し、家計負担が増加。一方、日本製鉄などが水素製鉄技術を開発するなど、産業界は技術革新で温暖化対策を加速させている。
1.5度目標遠のく:COP30、化石燃料脱却合意至らず 「地球温暖化」対策強化は待ったなし
2025年12月1日 日本経済新聞/共同通信社
世界が直面する地球温暖化の危機は、2025年もまた深刻度を増した。ブラジル・ベレンで開催された第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)は、温暖化対策の核心である「化石燃料からの脱却」について、主要国の利害対立により合意に至らず、国際的な協調体制の停滞が浮き彫りとなった。一方で、2035年までに温室効果ガス(GHG)排出量を2019年比で60%削減する必要性が再確認され、パリ協定の掲げる「1.5℃目標」達成に向け、残された時間は極めて少ないとの警鐘が鳴り響いている。
国際協調の停滞と日本の役割
COP30は、主要排出国が依然として脱炭素化戦略を強化できていない現状を映し出した。2025年2月の国別削減目標(NDC)提出期限を過ぎても約4割の国が未提出であり、現状の目標を合計しても、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える閾値を超える恐れが強まっている。
会議では、化石燃料依存からの明確な脱却路線を示すことができなかったものの、途上国の気候災害対策資金を3倍に増強する合意や、日本、ブラジル、イタリアが主導した「ベレン持続可能燃料4倍宣言」など、部分的な前進も見られた。日本は、1.5度目標に整合した新たなNDCを提出し、多国間協力の重要性を強調したが、国際社会全体としての排出削減へのコミットメントは力強いものとは言えない。
科学的知見によれば、世界のGHG排出量は増加傾向が続き、このままでは地球に壊滅的な被害をもたらす温度上昇を招く。国際的な政治的駆け引きを超え、各国が2035年までの削減目標を大幅に強化し、具体的な実行に移すことが急務となっている。
異常気象の「常態化」:生活を直撃する温暖化の現実
地球温暖化の進行は、日本国内の生活基盤と経済活動に深刻な影響を与え始めている。2025年夏は、日本列島で観測史上最高の気温が記録され、多くの地点で「記録的高温」が発生した。気象庁や専門家の分析では、このような極端な高温は、人為的な地球温暖化がなければ「ほぼ発生し得ない」と結論付けられており、異常気象が既に「常態化」したことを示唆している。
さらに、工業化以前に100年に1度だった極端な大雨の発生頻度も、気温上昇に伴い増加。2025年も各地で「想定外の規模」の豪雨災害が発生し、土砂災害や浸水被害が深刻化した。
これらの気候変動は、生態系と食糧供給の安定性を脅かしている。水温上昇による魚類の分布変化は漁業資源に打撃を与え、特にサンマやイカの漁獲量が減少。また、記録的高温は、稲の登熟不良や野菜の生育遅れを引き起こし、食糧安全保障上の懸念を高めている。
家計を圧迫する温暖化対策コスト
地球温暖化対策は、家計に直接的なコスト負担を強いる。猛暑による消費支出の増加はその最たる例だ。2025年夏の試算では、東京の家計消費支出が猛暑の影響で約772億円増加し、世帯当たり月平均3,500円超の支出増となった。これは主にエアコン使用による電気代の上昇に起因しており、家計は必需的支出の増加により、医療や交際費などの裁量的支出を抑制せざるを得ない状況にある。
また、温暖化対策の中核となる「地球温暖化対策税」や、再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の上昇も負担となっている。再エネ賦課金は2025年度に過去最高の水準に達し、政府の電気・ガス料金支援策も、根本的なコスト構造の変化には追いついていない。
家計負担を長期的に軽減するためには、高断熱・高気密の省エネ住宅への転換や、消費者自身の省エネ意識改革が不可欠だ。国の目標である2030年度の家庭部門66%削減達成には、個々の消費者の行動変容が重要な役割を果たす。
日本製鉄など産業界が牽引する技術革新
国際的な対策の遅れが目立つ中、日本の産業界はカーボンニュートラル実現に向けた革新的な技術開発を加速させている。特に注目されるのが、鉄鋼業における脱炭素化だ。日本製鉄は、従来の石炭由来エネルギーを大幅に削減する「水素還元製鉄技術」の開発を推進しており、鉄鋼製造におけるCO2排出削減に挑む。
また、AI・IoTを活用したスマートグリッドソリューションや、日本財団と連携したCCS/CCUS(二酸化炭素の回収・貯留・利用)技術開発も活発化している。政府のグリーンイノベーション基金を活用し、14分野にわたる革新的技術開発を支援することで、国内のスタートアップ企業も脱炭素化の波に乗る。
これらの技術革新は、日本の国際競争力を維持しつつ、地球温暖化対策を両立させるための鍵となる。COP30の結果が示す通り、国際的な政治合意に時間を要する今、技術力による排出削減と、異常気象に耐えうる適応策の導入が、日本社会の持続可能性を左右する喫緊の課題となっている。(了)