AI自動化と水素燃料電池：未来の鉄道システムを支える二大革新【鉄道技術展2025】

【深度解説】未来の鉄道システムを支える二大潮流：AIが導く完全自動化と水素燃料電池が拓く脱炭素社会

キーワード：鉄道技術展、AI、自動運転、GoA 4、デジタル保全（CBM）、水素燃料電池鉄道車両、生成AI、労働力不足

運輸業界が深刻な人手不足に直面する中、鉄道システムの持続可能性をどう確保するかは喫緊の課題となっている。2025年11月26日から幕張メッセで開催される「鉄道技術展2025」では、この難題に対する日本の技術者たちの回答が鮮明に示された。展示の主軸は、AIと自動運転技術による抜本的な省人化・DX推進と、2050年のカーボンニュートラル達成を見据えた水素燃料電池鉄道車両の開発動向である。

I. AIとGoA 4が牽引する「自動化」革命

今回の鉄道技術展で最も注目を集めたのは、運行の安全性と効率性を両立させるための自動化技術の進化だ。特に、自動運転の段階を示すGoA（Grades of Automation）は、運転士が乗務しないGoA 4（完全無人運転）の実用化に向けた技術開発が加速している。

日立製作所は、AIを強化したデジタルアセットマネジメントプラットフォーム「HMAX」を出展。これは、Lumada 3.0を活用し、運行データから保守計画までを一元管理し、鉄道事業者全体の課題解決をデジタル技術で包括的に支援する。

また、三菱電機は、無線、センサー、カメラ、AIを融合させた自動・自律運転技術を披露。デジタル基盤「Serendie」を通じて、保守業務の省力化や作業計画の最適化を図る。NECも「Next Generation Railway」をテーマに掲げ、高精度検知技術とAIを組み合わせた次世代ソリューションを紹介し、長距離・高精度検知技術（600メートル先の人や障害物を検知可能）が自動運転化の安全性を飛躍的に高めることが示された。

これらの技術は、単に運行を自動化するだけでなく、現場の労働力不足を解消し、より高度な判断が必要な業務へ人材を再配置するための基盤となる。JVCケンウッドのワンマン運転支援システムや、JRシステムのAI自動応対バーチャル駅員「アシストマルスAI自動応対」など、運行・駅務のデジタル化も多角的に進んでいる。

II. 予兆保全へ移行するデジタルインフラ管理

鉄道の安全運行を支えるインフラ管理においても、AIとIoTによる革新、すなわちデジタル保全（CBM：状態基準保全）への移行が明確になった。

従来、定期的な点検が主流であった保守・点検業務は、センサーやIoT機器で施設の状態をリアルタイムで監視し、AIが異常傾向を分析する「予兆保全」へと進化している。これにより、無駄な点検を削減し、故障が発生する前に対応することで、保守の省力化と安全性の両立が可能となる。

ADLINKが出展したエッジAIプラットフォームは、インテルベースのモジュールを活用し、現場に近い場所で高速なデータ処理を実現。これにより、線路や車両の異常検知、映像解析による安全監視が瞬時に行える。

さらに、業務効率化の切り札として生成AIの応用も進展している。三菱電機の駅務マネジメント支援システムやJRシステムのソリューションは、生成AIを活用して駅窓口での複雑な問い合わせ対応や勤務シフト作成を支援し、現場の負担軽減に大きく貢献する。リスク基準に基づくデータの一元管理とシステム統合が進むことで、鉄道業界全体のDXが加速していることが示された。

III. 脱炭素社会の実現に向けた水素の挑戦

鉄道技術展のもう一つの大きな柱は、地球環境問題への対応、特に脱炭素化への取り組みである。2050年のカーボンニュートラル実現に向け、鉄道分野でも水素燃料電池鉄道車両の開発が不可欠とされている。

特に、非電化区間で現在ディーゼル車両が使用されている路線において、CO2を排出しない水素燃料電池鉄道車両への置き換えが期待されている。技術展では、低コストの燃料電池車両と安価なグリーン水素の供給という二つの課題を解決するため、産官学が連携した取り組み（国土交通省「水素燃料電池鉄道車両等の導入・普及に関する連絡会」など）が紹介された。

同時期に開催されるH2＆FC EXPO（水素・燃料電池展）との連携からも、鉄道業界がエネルギー転換を真剣に捉えていることが伺える。水素リークセンサーや燃料電池用バイポーラプレートなど、関連技術の展示は、日本が世界をリードする省エネルギー技術と融合し、持続可能な鉄道システムの実現に向けた具体的な道筋を示している。

鉄道技術展2025は、日本の鉄道業界が直面する労働力不足と環境問題という二つの巨大な壁に対し、AIによる「知」の力と、水素による「エネルギー」の革新をもって立ち向かう決意を示す場となった。これらの最先端技術の社会実装が、安全、効率、利便性を兼ね備えた未来の鉄道システムを構築する鍵となるだろう。