【進化する小売】イオンモールが仕掛けるEC時代の「体験型」戦略と持続可能なまちづくり
ニュース要約: イオンモールはEC時代に対応し、リアル店舗の価値を「体験・交流」のハブへと再定義。子ども向け職業体験施設や大規模イベントを導入し集客力を強化する。また、WAONポイント還元での年末商戦対策に加え、「脱炭素ビジョン」に基づく環境負荷軽減とDX推進、地域インフラとしての持続可能なまちづくり戦略を加速させている。
進化する「イオンモール」:EC時代のリアル店舗再定義と持続可能な「まちづくり」戦略
2025年11月24日
日本全国に展開する巨大複合商業施設「イオンモール」が、大きな変革期を迎えている。EC(電子商取引)の台頭により、単なるモノの販売拠点としての役割が薄れる中、同社は「リアル店舗ならではの価値」の再定義を急務としている。戦略の柱は、徹底した体験型施設の導入、デジタル技術を活用した効率化と環境負荷軽減、そして地域社会のインフラとしての役割強化だ。
リアル店舗の「価値」を再定義する体験戦略
イオンモールがECに対抗し、顧客の滞在時間と来館頻度を向上させるために注力しているのが、エンターテインメント性と教育的要素を融合させた体験型施設の拡充である。
その象徴が、子ども向け職業体験テーマパーク「カンドゥー」の西日本初出店(イオンモール大日、2025年冬予定)だ。約30種類の仕事体験を通じて、子どもが社会の仕組みや責任感を学ぶことができる。また、イオンモール堺鉄砲町では、自然環境をテーマにした屋内遊び場「ちきゅうのにわ」がオープンするなど、家族連れをターゲットにした「学びと遊び」の場を提供することで、施設全体の集客力を高めている。
さらに、イオンモール幕張新都心では、商業施設初となる新幹線シミュレータ体験を提供する「超・鉄道祭」を開催するなど、特定の趣味嗜好を持つ層を狙った大規模なエンターテインメントイベントを組織的に展開。これは、オンラインでは代替できない「非日常的な体験」こそが、リアル店舗の最大の強みであるという戦略的判断に基づいている。
年末年始を起点とする集客強化策
直近の消費喚起策として、イオンモールは年末年始の需要を取り込むため、「イオン 超!初売り」を軸とした大規模な販促キャンペーンを展開する。
特に注目されるのは、1月1日から5日までの初売り期間中に実施されるWAONポイント最大10倍(一部AEON Pay利用で11倍)還元キャンペーンだ。高いポイント還元率を設定することで、購買意欲を刺激する。また、帰省客や親族の集まりが多い「奇跡の9連休」に対応するため、大人数向け大容量総菜や限定ギフトの品揃えを強化。さらに、恒例の福袋や抽選会、餅つき体験などの伝統的な正月イベントを多数開催し、家族連れや地域住民の来店を促す。
オンラインショップでも「イオン 超!初売り」を同時開催し、オンラインとオフラインの連携を深めることで、顧客接点の最大化を図っている。
環境負荷軽減と地域社会へのコミットメント
イオンモールの進化は、商業戦略に留まらない。環境負荷軽減と社会インフラとしての役割強化も重要な経営課題だ。「イオン脱炭素ビジョン2050」に基づき、2040年度までに国内で排出するCO2を実質ゼロ、使用電力を100%再生可能エネルギーに切り替える目標を掲げる。
具体的には「スマートイオン」の展開を推進し、太陽光発電システムの積極導入やLED照明の全面化、高効率省エネ機器の導入を進めている。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)も加速。AIカメラや従業員間リアルタイム連携システム「Buddycom」を導入することで、店舗運営の省力化と効率化を図り、少人数でのサービス提供を可能にしている。
さらに、無人販売機(スマート販売機)の導入により、HACCP管理のもとで衛生管理を徹底しつつ、食品ロスの削減に貢献するなど、サステナビリティ対応を強化している。
新規出店においても、地域との協調を最優先する。2025年秋に開店を予定しているイオンモール須坂(長野県)など、各地での開発プロジェクトでは、地域住民や自治体との綿密な連携を通じて、交通量増加や周辺環境への影響を最小限に抑える努力を続ける。単なるショッピングの場ではなく、防災拠点機能の提供や地域コミュニティの中核施設としての役割を担うことで、「持続可能なまちづくり」への貢献を目指す姿勢を明確にしている。
イオンモールは、EC時代におけるリアル店舗の存在意義を、消費の場から「体験」「交流」「社会貢献」の複合的なハブへと再定義することで、未来の小売業の姿を提示し続けている。