高市総理「存立危機事態」発言が招いた日中関係の激変:G20首脳会談拒否の波紋
ニュース要約: 高市総理が台湾有事の際、「存立危機事態」に該当し得ると具体的に言及したことで、日中関係が急速に悪化している。従来の「戦略的曖昧さ」を覆すこの発言に対し、中国はG20での首脳会談を拒否し、日本への渡航自粛を要請するなど強硬な対抗措置に出た。外交当局は沈静化に努めるが、長年の外交バランスを崩したことへの識者の懸念も高まっている。
緊張高まる台湾海峡:高市総理「存立危機事態」発言が招いた外交の波紋
2025年11月18日、日本の外交・安全保障政策を巡る緊張がかつてないほど高まっている。高市早苗総理が衆議院予算委員会で台湾有事に関する具体的な言及を行ったことを発端に、日中関係は急速に冷え込みを見せている。従来の「戦略的曖昧さ」を覆すかのような総理の発言は、中国側の猛反発を招き、外交ルートでの対立が深まっている状況だ。
核心を突いた「存立危機事態」の明言
高市総理の発言の核心は、11月7日の国会答弁にある。「台湾に武力攻撃が発生し、海上封鎖を解くために米軍が来援し、それを防ぐために武力行使が行われる」という最悪のシナリオを想定し、これが集団的自衛権の発動要件である「存立危機事態」に該当し得ると明言した点だ。
歴代政権が避けてきたこの具体的な言及に対し、総理は「撤回・取り消しの予定はない」と強気の姿勢を崩していない。この発言は、日米同盟の抑止力強化を意図したものと専門家(筒井義信氏など)は分析する一方で、中国側は「内政干渉」と断じ、即座に対抗措置に乗り出した。
中国は、今週末予定されていたはずのG20サミットでの日中首脳会談を「予定されていない」と発表。さらに、日本への渡航自粛要請という、経済・人的交流にまで影響を及ぼす異例の圧力をかけてきた。「地域情勢の緊張を高めている」との名目だが、明らかに日本の外交姿勢に対する牽制である。
外交の最前線、金井局長の苦闘
外交当局は、この緊張を沈静化させるべく水面下での努力を続けている。外務省の金井正彰アジア大洋州局長は18日、北京で中国外務省の劉勁松アジア局長と局長級協議に臨んだ。金井局長は、日本が1972年の日中共同声明で示した「中華人民共和国が中国の唯一の合法政府である」という立場は不変であることを説明し、日中関係の安定化を図ろうとした。
しかし、中国側は高市総理の答弁撤回を求め、協議は難航した模様だ。金井局長は、日本の基本姿勢を維持しつつ、中国側の強硬な姿勢(例えば、一部総領事による問題発言など)についても問題提起を行うなど、安定管理の役割を担っているが、中国が首脳会談を拒否している現状では、対話の道のりは険しい。
識者が懸念する「曖昧戦略」の崩壊
この一連の動きに対し、国内の識者からは厳しい論評が相次いでいる。
政策評論家の古賀茂明氏は、高市総理の発言を「従来の曖昧戦略を破壊した」と強く批判する。古賀氏は、中国の軍事的圧力を意識した現実主義的対応であることは認めつつも、「日中関係のさらなる悪化リスクを高めた」と警鐘を鳴らす。
また、国際政治学者の筒井義信氏も、高市総理の発言が「国内の保守的な支持層を意識したもの」であり、「外交的配慮が欠けていた」と分析。日本がこれまで慎重に保持してきた戦略的バランスを失うことの危険性を指摘している。
「曖昧戦略」とは、中国との関係を決定的に悪化させず、同時に米国の抑止力を維持するための、日本にとって最も現実的な処方箋だった。高市総理の「断言」は、この長年の知恵を放棄したのではないかという懸念が、専門家の間で共有されている。
ネットミーム化する外交議論
一方で、この緊迫した外交状況は、国民の関心をかつてなく高めている。SNS上では、中国外交部の定型的な主張を風刺した「大判焼外交部ジェネレーター」といったネットミームまでが流行し、若年層を中心に政治議論が活発化している。これは、抽象的だった外交・安保論議が、総理の具体的な発言によって一気に身近な話題となったことの裏返しとも言えるだろう。
しかし、外交は軽々に扱うべきではない。高市総理の発言は、日米同盟を強化し、中国への抑止力とする明確なメッセージとなった反面、一度失われた対話の機会を回復するのは容易ではない。G20後の日中関係の行方、そして日本が台湾有事の「現実」とどう向き合っていくのか、高市政権の外交手腕が試される局面が続く。