ノーベル賞の光と影:NATO加盟で転換期を迎えたスウェーデンの安全保障と経済
ニュース要約: ストックホルムはノーベル・ウィークの華やかさの中、歴史的な転換期を迎えている。スウェーデンは長年の中立を捨てNATOに加盟し、北欧の安全保障地図を塗り替えた。日本人受賞者が注目される一方、同国は防衛強化と経済減速による福祉国家モデルの試練に直面。平和への強い意志を示すスウェーデンの現状を追う。
混沌の時代に光を灯す:ノーベル賞と安全保障の激流に立つ北欧モデル
【ストックホルム発:2025年12月6日 共同】
北欧の盟主スウェーデンの首都ストックホルムは今、厳寒の冬空の下、華やかなノーベル・ウィークの真只中にいる。6日から関連行事が本格化し、10日の授賞式に向けて国を挙げた歓迎ムードが高まっている。しかし、この平和と学術の祭典の裏側で、スウェーデンは長年維持してきた中立の歴史を転換し、安全保障環境の劇的な変化と、福祉国家モデルを揺るがす経済の試練に直面している。平和の光と防衛強化の影、そして伝統が交錯する現在のスウェーデンの姿を追う。
ノーベル・ウィーク、日本人受賞者の期待
今年のノーベル賞授賞式は例年通り、ストックホルムのコンサートホールで開催される。特に日本からは、生理学・医学賞の坂口志文大阪大学特任教授と、化学賞の北川進京都大学特別教授が受賞者として招かれており、大きな注目を集めている。北川氏は「思ったより暖かい」と現地入り後の感想を述べるなど、落ち着いた様子でノーベル・ウィークに臨んでいるという。両氏は6日にノーベル博物館で他の受賞者と顔合わせを行い、7日以降、記念講演や記者会見に臨む予定だ。
この時期、ストックホルム市民の心を温めるのが、12月13日に迫った伝統行事、ルシア祭である。この祭典は、暗く長い冬に光をもたらす平和と再生の精神を象徴する。白い衣装にロウソクの冠を載せたルシア役の少女が聖歌を歌いながら練り歩く姿は、学術の功績を称えるノーベル賞と同様に、スウェーデン社会が大切にする「希望」そのものを体現している。
安全保障の転換点:NATO加盟と「北の守り」
しかし、2023年に長年の軍事的中立政策を捨て、NATO(北大西洋条約機構)に加盟したことは、スウェーデンの国是を根底から変えた。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、スウェーデンはフィンランドと共にNATO加盟を果たし、北欧地域の安全保障地図を塗り替えた。
新たな防衛戦略として、スウェーデン議会は2030年までに4個旅団の編成を完了させる計画を採択している。これはNATOの「360度全方位アプローチ」に基づき、集団防衛に「連帯的かつ実用的に貢献する」姿勢の表れだ。特に、地理的に重要な位置にあるスウェーデンのNATO加盟は、バルト海をほぼNATOの海とし、バルト三国の防衛・抑止態勢を飛躍的に強化したと評価されている。潜水艦を中心とした熟練した海軍力は、バルト海の制海権確保に不可欠な「北の守り」として、NATO全体の戦略的インフラ保全に貢献していくことになる。
試練に立つ福祉国家モデル:経済減速とインフレ鈍化
安全保障の強化が急務となる一方で、スウェーデン経済は試練の局面に立たされている。2025年の経済状況は、経済活動の減速とインフレの鈍化が特徴的だ。
スウェーデン国立銀行(リクスバンク)は、経済活動を下支えするため、2025年9月に政策金利を1.75%に引き下げた。インフレ率は低下傾向にあり、9月には0.9%と、リクスバンクが目標とする2%を大きく下回る水準となっている。実質GDP成長率は2025年第2四半期に回復の兆しを見せたものの、主要貿易相手国の成長鈍化が輸出の重しとなり、全体として不透明感が漂う。
高福祉・高負担を維持してきたスウェーデンの福祉国家モデルは、この経済減速とインフレの不確実性によって、財政負担の増加や政策調整の必要性という新たな圧力に直面している。政策当局は、経済成長の回復と物価の安定化という難題に対し、柔軟な金融・財政政策を模索している段階だ。
平和への強い意志
ノーベル賞の華やかさ、ルシア祭の伝統、そしてNATO加盟による防衛体制の強化。これら全ては、スウェーデンが不安定な国際情勢の中で、平和と安定への強い意志を持ち続けていることの証左である。経済的な課題を抱えながらも、スウェーデンが「北の守り」としての役割を確実に果たし、欧州の安全保障と国際協力においてどのような舵取りを見せるのか、世界は注視している。