小田急線：複々線化の成果と安全対策強化—進化する「利便性」と「安心」の追求

小田急線、安全と利便性の進化：複々線化の成果と沿線価値再構築への挑戦

2025年11月24日

首都圏の重要な動脈である小田急線は、2018年の複々線化完成後、その真価を発揮し続けている。利便性の向上は沿線地域の再開発を加速させる一方、2021年の車内傷害事件を教訓とした安全対策の強化は、利用者の「安心」を再定義するに至った。現在、小田急線は平常運転を続ける中、紅葉シーズン終盤の観光需要と、年末年始に向けた輸送体制の準備を進めている。本稿では、小田急線が目指す「安全と利便性の両立」の現状と今後の展望を追う。

都市交通革命：複々線化がもたらした生活圏の変貌

小田急線の複々線化プロジェクトは、長年の懸案であった朝ラッシュ時の混雑緩和と定時運行の実現に決定的な役割を果たした。公式発表によれば、朝ラッシュ時の混雑率は、従来の190％前後から150～160％程度へと大幅に改善。特に多摩ニュータウン方面からのアクセスは劇的に向上し、小田急多摩センターから新宿までの所要時間は最大14分短縮され、最速40分で結ばれるようになった。

この所要時間短縮は、沿線地域の価値を根底から変えている。海老名駅周辺では「ViNA GARDENS」に代表される大規模複合開発が進行し、多摩センター駅周辺でも住宅需要が高まりを見せている。また、町田駅周辺や下北沢、成城学園前など主要駅周辺でも、複々線化による利便性向上を背景に、駅改良や子育て世代をターゲットとしたまちづくりが加速している。鉄道インフラの進化が、沿線全体の生活の質と経済活動の活性化に不可欠な要素となっていることが改めて示された形だ。

信頼回復への道：事件を教訓とした安全対策の強化

しかし、利便性の追求と並行し、鉄道事業者が最も重きを置くべきは「安全」である。2021年8月に発生した小田急線車内での傷害事件は、鉄道の安全性に対する国民の認識を大きく変えた。これを受け、小田急電鉄は国や業界と連携し、多角的な安全対策を急ピッチで進めている。

主な対策として、車両内への防犯カメラ設置が急務として進められ、新型車両（5000形など）への導入、既存車両への順次設置が進んでいる。さらに、非常通報装置はピクトグラムの導入により操作の分かりやすさが改善されたほか、緊急時には列車を速やかに適切な場所へ停止させ、乗客を安全に避難誘導するための訓練とマニュアル整備が徹底されている。

駅設備に関しても、新宿駅や下北沢駅など主要駅でのホームドア設置が進行中だ。また、事故を未然に防ぐため、社員の安全意識を高める研修施設「安全深思塾」の活用や、毎年公表される「安全報告書」を通じた透明性の高い情報公開が、利用者からの信頼回復に繋がる鍵となっている。

観光需要の牽引：紅葉から冬イベント、そしてロマンスカーの未来

季節は紅葉の終盤を迎え、小田急線沿線の主要観光地は賑わいを見せている。箱根強羅公園や芦ノ湖周辺では11月中旬から下旬にかけて紅葉が見頃を迎え、多くの観光客が箱根登山鉄道やロープウェイを利用した。この高まる観光需要を背景に、12月以降は江ノ島・鎌倉エリアのイルミネーションや、箱根神社の年末年始の初詣シーズンへと移行する。

運行状況について、現在小田急線は平常運転を維持しているものの、過去の傾向から、年末年始（12月下旬～1月上旬）には臨時列車の運転や、臨時特急の増便など、需要に対応したダイヤ変更が実施される可能性が高い。2025年11月11日にも臨時特急列車の運転実績があり、今後の公式発表が注目される。

さらに将来を見据えると、2026年3月のロマンスカーミュージアムにおけるVSE（50000形）の展示や、2027年秋に予定される箱根ハイランドホテルの再誕など、観光の起爆剤となるプロジェクトが控えている。

小田急電鉄は、複々線化というハード面の成果を最大限に活かしつつ、安全対策というソフト面での信頼性を高めることで、沿線価値の持続的な向上を目指している。利用者にとっては、遅延証明書のオンライン発行といった利便性向上策に加え、オフピーク利用の呼びかけに応じるなど、鉄道運行への協力も、より快適な都市生活を享受するための要件となりつつある。進化を続ける小田急線の動向は、今後も首都圏の交通とまちづくりのモデルケースとして注目され続けるだろう。