なぜ好決算で株は売られたのか?JX金属(5016)急落の震源地「需給の壁」
ニュース要約: 東証プライム上場のJX金属(5016)の株価が、好調な中間決算発表にもかかわらず急落し、直近1カ月で26%下落。原因は、業績ではなく信用買残の積み上がりによる極度な需給悪化(総投げ)にある。同社は半導体材料で高シェアを誇るが、市場全体のリスク回避と需給の重さが上回った形だ。MSCI指数採用などのイベントが短期的な反転の鍵を握る。
JX金属(5016)株価急落の深層:好業績を打ち消す「総投げ」と需給悪化
2025年11月、東証プライムに上場する非鉄金属大手、JX金属(5016)の株価が急激な下落に見舞われている。市場環境が軟化する中、同社の株価は直近1カ月で約26%もの急落を記録し、特に11月18日には前日比9%超の大幅安となるなど、「総投げ」とも呼べる売りが集中した。
特筆すべきは、この急落が11月11日に発表された好調な中間決算発表の直後に起きている点だ。通期最終利益を従来予想から約13%上方修正し、年間配当も増額したにもかかわらず、市場はこれを無視して売り圧力に晒されている。日本の素材株を代表する同社の動向は、単なる個別銘柄の調整にとどまらず、素材産業全体のセンチメント悪化を示唆している可能性があり、投資家の間に警戒感が広がる。
株価は一カ月で2割超下落、「需給の壁」に直面
JX金属の株価は、10月に2,200円台の高値を付けた後、11月中旬には1,720円台まで水準を切り下げた。今月に入ってからの下落スピードは特に速く、11月18日には1,639円台で取引される局面も見られた。
この急落の震源地となっているのは、業績そのものではなく、極度に悪化した需給環境にあると市場関係者は分析する。
まず、8月から10月にかけて、同社の株価はAI関連需要への期待や半導体材料分野の好調さを背景に異常な急騰を見せていた。この過程で積み上がった信用買残が約1,800万株レベルと高水準に達しており、株価が下落に転じたことで、含み損を抱えた投資家による追証(追加保証金)解消のための投げ売り(ロスカット)を誘発している。テクニカル指標を見ても、RSI(相対力指数)は約37と売られ過ぎの水準に突入し、50日移動平均線も完全に下抜けており、短期的な調整局面の深さが示されている。
金属市況の頭打ちと全体市場の警戒感
需給の悪化に加え、主要取扱金属の国際市況が頭打ちとなっていることも、素材株である同社にとって逆風となっている。
銅は高値圏での揉み合いが続き、利下げ観測の後退により金の上値も重い展開だ。さらに、ニッケルは世界的な在庫増加を背景に価格が弱含んでおり、非鉄金属セクター全体にとって「素直な上昇相場」が消滅しつつある。
また、11月18日の東京株式市場は日経平均株価が500円超の大幅安で始まるなど、市場全体がリスク回避姿勢を強めた。米国の利下げ期待の後退や、過熱気味であったAI関連株バブルへの警戒感が、JX金属を含むハイテク関連素材銘柄にマイナス圧力として作用している。好業績発表というポジティブ材料があったにもかかわらず、外部環境の不透明感と短期的な需給の重さが上回った形だ。
中長期の成長戦略は健在か、反転の鍵を握る重要イベント
しかし、中長期的な視点で見ると、JX金属のファンダメンタルズは依然として堅調である。
同社は、半導体製造に不可欠なスパッタリングターゲット(金属薄膜材料)で世界シェア約6割を握るグローバルニッチトップ企業であり、AIや情報通信分野の需要拡大を追い風に、売上高、利益ともに着実な成長を続けている。ENEOSグループからの独立上場(IPO)を経て、今後は独自のM&A戦略を加速させ、高成長分野への経営資源集中を図る方針だ。
さらに、短期的な株価反転のきっかけとなり得る需給イベントも控えている。11月21日にはMSCI指数の採用、そして28日には日経半導体指数の採用が予定されており、これに伴うインデックスファンドによる機械的な買い付けが、現在の総投げ状態に終止符を打つ可能性が指摘されている。
投資家にとっては、短期的には下振れリスクを警戒しつつも、現在の急落が「好業績銘柄が市場全体の調整と需給悪化に巻き込まれた結果」と判断できるかどうかが重要となる。PER21倍台、PBR2.6倍程度と割高感が完全に払拭されたわけではないが、調整後の株価水準でAI関連需要の確実な反映が確認できれば、段階的な買い増しを検討する好機となる可能性もある。当面は、MSCI採用後の需給改善の度合いと、金属市況の回復動向を注視する必要があるだろう。