インフレで老後資金「2000万円」は過去の遺産に? 必要額3000万円超の衝撃試算
ニュース要約: 2019年に問題化した「老後2000万円問題」は、2022年以降の継続的なインフレにより新たな局面を迎えています。専門家の試算では、老後資金は3000万円以上必要との見方が広がり、現役世代の自助努力(新NISA活用含む)だけでは限界があるとの指摘も。公的年金制度の抜本的改革と個人の資産形成の両輪が求められています。
「老後2000万円」では足りない時代に インフレ継続で必要額3000万円超の試算も
若年層の資産形成、新NISA活用も「自助努力の限界」指摘する声
2019年に社会問題化した「老後2000万円問題」が、新たな局面を迎えている。2022年以降の継続的な物価上昇により、老後に必要な資金は当初の試算を大きく上回る可能性が高まっているためだ。専門家の間では「3000万円以上必要」との見方も広がり、現役世代の資産形成の在り方が改めて問われている。
老後2000万円問題は、金融庁の報告書が発端となった。高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の毎月の収支差が約5.5万円の赤字となり、これが30年間続くと約2000万円の資金不足が生じるという試算だった。しかし、この数字は2017年時点の物価水準を基にしたものだ。
足元の状況は大きく変わった。2022年以降、エネルギー価格の高騰や円安の影響で、日本は継続的なインフレ局面に入っている。最新の専門家試算では、年率2%程度の物価上昇が続くと仮定した場合、老後資金として追加で約1000万円以上が必要になるという。30年後の生活費総額は当初の想定を大幅に上回り、「2000万円では対応できない」というのが共通認識となりつつある。
さらに医療・介護費用の増加や、将来的な消費税率の変動なども考慮すると、必要額はさらに膨らむ。ある金融アナリストは「インフレの影響を加味すると、老後資金は3000万円から3500万円程度を見込むべき」と指摘する。
こうした中、2024年に改正された新NISA(少額投資非課税制度)が注目を集めている。年間最大360万円、生涯で最大1800万円までの非課税投資が可能で、非課税保有期間が無期限になったことから、長期的な資産形成の有力な手段として若年層を中心に利用が広がっている。
新NISAは「長期・積立・分散」の原則に基づき、複利効果を活かした運用ができる。時間的余裕のある若年層にとっては、リスク許容度に応じた積極的な投資戦略が可能だ。背景には、年金制度への不信感もある。若い世代ほど「年金だけでは老後資金が不足する」との危機感が強く、自助努力としての資産形成意欲が高まっている。
一方で、現役世代の厳しい現実も浮き彫りになっている。平均年収350万円程度の会社員の場合、退職金制度があったとしても、老後資金2000万円の確保は容易ではない。退職金の平均額は1700万円から2000万円程度だが、ピーク時と比べて3~4割減少している。年金収入も、厚生年金加入者で月約22万円、国民年金のみでは月5~6万円と、生活費に届かないケースが多い。
住宅ローンや教育費の負担を抱える世代にとって、毎月の貯蓄を積み増すのは現実的に難しい。家計の見直しや副業、資産運用など複数の対策を組み合わせても、「自助努力には限界がある」との声が専門家から上がる。
公的年金制度も岐路に立つ。政府は少子高齢化に対応するため、給付抑制の自動調整機能「マクロ経済スライド」を導入しているが、これだけでは十分ではない。基礎年金の全額国庫負担化や、厚生年金と国民年金の一元化など、抜本的な改革案の検討も進むが、現役世代の負担増は避けられない見通しだ。
老後2000万円問題は、もはや個人の資産形成だけで解決できる問題ではない。制度改革と自助努力の両輪で、持続可能な老後の在り方を模索する時期に来ている。