【ミラノ五輪】中立選手として挑むロシアの絶対女王アデリア・ペトロシアン、SP5位発進の衝撃と孤独な戦い
ニュース要約: 2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪のフィギュア女子SPに、ロシア選手権3連覇のアデリア・ペトロシアンが「中立選手(AIN)」として登場。コーチ不在という異例の環境下で完璧な演技を披露し72.89点をマークしました。ワリエワ問題の影が残る中、政治的制約を乗り越え銀盤に降り立った新星が、メダル争いを揺るがす圧倒的な実力とロシア勢の現在地を世界に示しています。
【ミラノ発】揺れる銀盤、ロシアの新星が示した「実力」と「空白」――アデリア・ペトロシアンの五輪デビュー
2026年2月17日(日本時間18日)、ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪のフィギュアスケート女子ショートプログラム(SP)。場内の張り詰めた空気の中、銀盤に降り立ったのは「ロシア選手権3連覇」という圧倒的な実績を持つ18歳、アデリア・ペトロシアンであった。
かつて世界を席巻したロシア勢が国際舞台から姿を消して3年余り。今大会、彼女は国旗も国歌も許されない「中立選手(AIN)」として、この地に戻ってきた。その演技は、混迷を極めるフィギュアスケート界の現在地を鋭く突きつけるものとなった。
完璧な演技と不可解な「不在」
マイケル・ジャクソンのメドレーに乗せ、2番滑走で登場したペトロシアン。冒頭のダブルアクセルを鮮やかに着氷させると、後半のフリップ―トーループの連続3回転を含む全ジャンプをミスなく完遂。代名詞である切れ味鋭いスピンで演技を締めくくると、スコアボードには72.89点というハイスコアが刻まれ、暫定5位につけた。
しかし、演技直後のキス・アンド・クライに、彼女を指導する「鉄の女」エテリ・トゥトベリーゼコーチの姿はなかった。国際オリンピック委員会(IOC)および国際スケート連盟(ISU)が課した厳格な「中立選手」としての参加条件――、軍との関わりの排除や、戦争への支持表明の禁止――が、チーム・トゥトベリーゼの体制にも影を落としていることが伺える。
「中立選手とは」何か――突きつけられる厳格な条件
今回の「ロシア オリンピック」参加を巡る議論において、避けて通れないのが「中立選手(AIN: Athlete Individual Neutral)」という定義だ。
ISUの決定により、ロシア代表としての出場は禁じられ、団体戦への参加も認められていない。個人競技においても、1国につき男女各1名という極めて狭き門となっている。さらに、ドーピング検査における過去の「クリーンさ」が徹底的に精査される。かつて北京五輪でドーピング騒動の渦中にあったカミラ・ワリエワは、4年間の資格停止処分により今大会の選考から完全に除外された。
こうした厳しい背景の中で、アデリア・ペトロシアンという「新星」が中立の立場で選出されたことは、彼女が技術面だけでなく、政治・倫理的な審査においても「クリーン」であると認められたことを意味する。
「ペトロシアン フィギュア」が示す新時代の頂点
アデリア・ペトロシアン(またはペトロシャン)の名が世界に轟いたのは、女子選手として史上初めて4回転ループを成功させた時だ。今回のSPでは封印したものの、彼女はフリーにおいて複数の4回転ジャンプを操る能力を秘めている。
ロシア国内では、2024年から2026年までロシア選手権3連覇、ロシアGPファイナルでも3連覇と、文字通りの「絶対女王」として君臨してきた。国内大会での自己ベスト262.92点という驚異的なスコアは、世界女王の坂本花織ら国際的なトップ選手たちにとっても、計り知れない脅威となっている。
「ここに来られたことは、私自身のキャリアにおいて最大の誇りです」と語るペトロシアン。しかし、そこにはロシアの国旗はなく、代わりにIOCが承認した中立のフラッグが掲げられている。
ワリエワの影とロシアフィギュア界の未来
依然として、ロシア フィギュアスケート界には「ワリエワ問題」の残像が色濃く残っている。ワリエワの処分が解けるのは奇しくも今大会の直前であったが、彼女が再び五輪のリンクに立つことは叶わなかった。
一方で、18歳となったペトロシアンが中立選手として見せた滑りは、個人の努力と才能が政治的な制約を超えてなお、輝きを放つことを証明した。リンクサイドにコーチが不在という異例の状況下でも、彼女は一切の動揺を見せず、ロシアの次世代エースとしてのプライドを示したのである。
「オリンピック ロシア」という言葉が持つ複雑な響き。女子シングルのメダル争いは、この「中立の天才」の登場によって、さらに予測不可能な領域へと突入した。2月19日に行われるフリースケーティングで、彼女がどのような「答え」を氷上に描くのか、世界中の視線が注がれている。
(特派員:ミラノ)