山田洋次監督『TOKYOタクシー』公開:倍賞千恵子70度目タッグ、人生の「艶」を描く巨匠の集大成
ニュース要約: 山田洋次監督の最新作『TOKYOタクシー』が公開。94歳の巨匠が、長年のミューズ倍賞千恵子(70度目出演)を迎え、人生の終活を迎える女性の半生を東京の移動を通して描く。木村拓哉、蒼井優ら豪華キャストが集結。戦争の記憶から現代の家族の絆まで、普遍的なテーマを優しく問いかける、感動の集大成だ。
山田洋次監督、91本目の集大成:『TOKYOタクシー』が描く人生の奇跡と東京の情景
2025年11月22日。日本映画界の巨匠、山田洋次監督の最新作『TOKYOタクシー』が、前日の21日に全国で封切られ、大きな反響を呼んでいる。94歳を迎えた監督が、昭和から令和へと激動の時代を生きた一人の女性の人生を、東京という大都市の移動を通して描き切った本作は、公開直後から「人間を愛し、人の生き方を愛する、どこまでも優しい映画」として高い評価を得ている。
本作は、2022年のフランス映画『パリタクシー』を原作とし、舞台をパリから東京へと移したリメイク作品である。しかし、単なる翻案に留まらず、山田監督と朝原雄三氏による脚色は、日本の歴史と情緒、特に葛飾・柴又に象徴される下町の温かさと、刻々と変化する大都市TOKYOタクシーの風景を完璧に融合させている。戦争の記憶から現代の終活まで、人生のほろ苦さとふいに訪れる出会いの奇跡が、103分の上映時間の中に凝縮されている。
長年のミューズ、倍賞千恵子との70度目のタッグ
物語の核となるのは、人生の終活に向かう85歳のマダム・高野すみれと、彼女を乗せた個人タクシー運転手・宇佐美浩二の一日の交流だ。すみれを演じるのは、山田監督の60年以上にわたるミューズであり続ける倍賞千恵子である。本作は、倍賞にとって山田監督作品への70度目の出演という節目となり、長年にわたり日本の家族像を体現してきた女優の集大成ともいえる深みが滲み出ている。
そして、タクシー運転手を演じるのは木村拓哉氏。この二人の共演は、2004年のスタジオジブリ作品『ハウルの動く城』で、それぞれソフィーとハウルとして声優を務めて以来となる。実写での本格的な共演は、ファンにとっても待望の組み合わせであり、世代を超えた名優たちの化学反応が、東京のロードムービーに温かい彩りを与えている。
蒼井優が体現する激動の人生
本作のドラマ性を高めているのが、蒼井優が演じる若き日のすみれの追憶のシーンだ。倍賞千恵子と蒼井優が二人一役で一人の女性の人生を表現するという、贅沢なキャスティングが実現した。蒼井優は、昭和の激動期、悲しい恋やつらい出来事を経験しながらも力強く生きたすみれの10代、20代を熱演している。
蒼井優は、山田組への参加は6度目となり、その現場を「優しさと緊張感に満ちた夢のような日々」と語る。彼女の演技は、倍賞が演じる現在のすみれの人生の重みと、人生の終盤に訪れる奇跡的な出会いの伏線として機能しており、多世代の女性の生き様が鮮やかに描き出されている。
山田洋次監督が語る「艶」
『TOKYOタクシー』の企画は、スタッフが「長年、山田監督の映画を支えてきた倍賞千恵子とのタッグを再びスクリーンで観たい」と熱望したことから生まれたという。監督は、古典ではなく「イキのいい作品」として『パリタクシー』を選び、それを日本人の心に響く物語として再構築した。
監督は撮影終了後、キャストやスタッフに対し「携わってくれた人の思いが作品の艶(つや)になっている。艶に恵まれたことに感謝している」とコメントしている。この言葉は、94歳の山田洋次監督が今なお、人間と創作に対して抱き続ける深い敬意と愛情を象徴している。
本作は、高齢化社会が進む現代日本において、「終活」や「家族の絆」といった普遍的なテーマを、tokyoタクシーという移動空間を通して問いかける。第38回東京国際映画祭で特別功労賞を受賞するなど、国内外で高い評価が確立されている『TOKYOタクシー』は、日本映画の伝統と革新をつなぐ、巨匠の集大成として、観客の胸に深く響く感動をもたらすだろう。