サンコール株価暴騰:12期ぶり最高益と「脱HDD」構造改革の結実を深掘り
ニュース要約: サンコール株が業績予想の大幅上方修正と手厚い株主還元策を受け急騰。通期経常利益は12期ぶり最高益を更新する見込みだ。この成功は、かつての主力だったHDD関連事業から撤退し、精密加工技術を次世代自動車部品や情報通信分野に集中させた構造改革の結実。ブラックロックの参入も加わり、中長期的な成長への期待が高まっている。
【深度検証】サンコール株価暴騰の裏側:12期ぶり最高益と「脱HDD」構造改革の結実
市場を席巻したサプライズ決算
2025年11月、自動車・電子部品を手掛けるサンコール(5985)が日本の株式市場で異例の急騰劇を演じ、市場の耳目を集めている。11月14日の決算発表を受け、同社株は翌営業日にストップ高に迫る勢いで値上がりし、17日現在も年初来高値を大きく更新している。出来高は通常の数倍に膨らみ、熱狂的な買いが集中。この暴騰は単なる一時的な材料によるものか、それとも長年の構造改革が結実し、企業価値が中長期的な評価を得た結果なのか。その背景を深掘りする。
業績と株主還元の「トリプル・サプライズ」
今回の株価急騰の直接的なトリガーとなったのは、2026年3月期通期の業績予想の大幅な上方修正だ。
サンコールは、通期の連結経常利益予想を従来の46億円から59億円へと28.3%も引き上げた。これは、過去12期ぶりの最高益予想をさらに大きく上乗せする水準である。特筆すべきは収益性の改善であり、第2四半期累計では経常損益が41.7億円の黒字に転換し、売上営業利益率も前年同期の2.6%から13.6%へと劇的に向上した。
さらに投資家を驚かせたのが、手厚い株主還元策だ。年間配当を従来の10円から15円に大幅増額したことに加え、上限30億円、150万株の自社株買いの実施も発表。業績改善と同時に、資本効率を重視する経営姿勢が明確に示されたことで、短期的な買いを誘発した。
構造改革の成果:精密技術の次世代シフト
サンコールの事業は、かつてHDD(ハードディスクドライブ)用サスペンションが大きな比重を占めていたが、デジタル化の進展に伴い、不採算事業からの撤退や整理を断行してきた。今回の最高益更新は、この痛みを伴う構造改革が結実したことを示している。
同社の核心的な強みは、ミクロン単位で金属を自在に操る「精密加工技術」と、ばね材料となる特殊線を自社で製造する「材料開発からの一貫生産体制」にある。この他社が模倣しにくい技術力を、成長分野へと振り向けていることが、市場から長期的な成長テーマとして評価され始めた。
具体的には、次世代自動車部品へのシフトと、電子情報通信分野(特にデータセンターや5G基地局向けの精密金属部品)への供給拡大である。自動車分野で長年培った精密ばね技術を、EV(電気自動車)や半導体関連といった先端産業に応用展開することで、収益の安定性と成長性を確保している。
ブラックロック参入が示す機関投資家の評価
株価をさらに押し上げる追加材料となったのが、世界最大の資産運用会社ブラックロック・ジャパンの動向だ。11月上旬に提出された大量保有報告書により、同社がサンコール株を5%超保有する大株主に浮上したことが判明した。
これは、サンコールの業績改善と事業構造転換が、海外の巨大機関投資家からも中長期的な成長テーマとして評価され始めたことを意味する。最高益更新、配当増額、自社株買いといったポジティブな材料に、ブラックロックという強力な「お墨付き」が加わったことで、市場の期待値は一気に高まったと言える。
短期的な過熱感と中長期的な展望
現在のサンコール株は、決算発表直後の短期的な過熱感が非常に強い状態にある。出来高の急増や信用買い残の増加は、短期的な利益確定売りや反動売りのリスクを内包している。
しかし、今回の暴騰は、単なる一時的な材料相場として片付けられない側面を持つ。不採算事業からの撤退、高収益分野への経営資源集中、そしてそれを支える高い技術的参入障壁を持つ一貫生産体制。これらの要素が結びつき、過去の業績の殻を破る最高益を実現したことは、同社が安定成長フェーズへと移行しつつある証左である。
投資家は、短期的な株価の変動に惑わされず、サンコールが今後、次世代自動車や情報通信分野で技術力をどこまで応用し、グローバル市場での競争優位性を維持できるのか、その中長期的な戦略の実行力を見極めていく必要があるだろう。構造改革の結実を市場が歓迎する局面が、ようやく本格的に幕を開けたと言える。