「自分ファースト」で救われた。にしおかすみこが語る認知症の母との葛藤と介護のリアル
ニュース要約: お笑い芸人・にしおかすみこさんが、認知症の母、ダウン症の姉との複雑な同居介護生活を赤裸々に語る。彼女は、過去の母娘関係の葛藤を乗り越え、「介護は自分ファーストで良い」「逃げることも大切」という新しい価値観を提唱。自己犠牲に陥りがちな介護家族に対し、ユーモアを交えながら、介護者自身の幸せを追求することの重要性を伝えている。
介護と葛藤の果てに見つけた「自分ファースト」の光:にしおかすみこが語る認知症の母と家族のリアル
お笑い芸人として一世を風靡したにしおかすみこさん(51)が、今、日本の多くの団塊ジュニア世代が直面する普遍的なテーマ――親の介護、特に認知症の母との複雑な関係性――を赤裸々に発信し続けている。2020年に実家に戻り、認知症の母、ダウン症の姉、そして父との同居生活を開始して以来、彼女は「ポンコツ一家」と称する日常の葛藤を包み隠さず綴ってきた。
2025年11月現在、にしおかさんが語る介護の現場は、単なる肉体的な負担に留まらず、過去の母娘関係の清算や、介護者自身の人生観の変革を迫る重い現実を伴っている。
遠距離介護から同居へ:逃げられぬ複合的な現実
にしおかさんは、実家に戻る前は遠距離介護の状態にあり、母の変化を目の当たりにするたびにショックを受け、実家への足が遠のく葛藤を抱えていたという。しかし、母の認知症が進行するにつれ、逃げられない現実と向き合うことを決意。現在は、認知症の母、ダウン症の姉、そして酔っぱらいの父という、複数の問題を同時に抱える環境で介護を担っている。
この複合的な介護環境は、介護者が陥りがちな「罪悪感」や「自己犠牲」の罠に繋がりやすい。しかし、にしおかさんはブログや講演会を通じて、そうした日本の介護文化に一石を投じるメッセージを発信し続けている。
特に注目されるのが、「逃げる」ことの重要性を強調する姿勢だ。彼女は「自分が元気でいるために『逃げる』ことも大切」「いつでも逃げ出す覚悟でいる」と率直に語る。これは、介護の「踏ん切り」がつかず、心身ともに疲弊してしまう多くの介護家族に対し、「介護は自分ファーストで良い」という、新しい価値基準を提示している。介護する側が自分の幸せを第一に考えなければ、家族も幸せにできないという信念は、多くの共感を呼んでいる。
高圧的な母との「和解」が生んだ新たな関係
にしおかさんが直面した最大の課題の一つは、母との過去の折り合いの悪さだった。認知症になる前の母は高圧的でワンマンな性格であり、娘との関係も複雑だった。この過去の関係性が、遠距離介護時代の実家への足の遠のきや、母の悪口を言ってしまうという葛藤に繋がっていた。
しかし、認知症の進行は、皮肉にも母娘の関係性を変化させた。母のワンマンな姿勢が弱まり、にしおかさんは「母が私を思う気持ちは変わらない。だからこそ、私も好きでいられる」という感情に辿り着く。母の人格や尊厳に目を向け、病気の症状ではなく、一人の人間としての母を理解しようとする努力が、長年の母娘の溝を埋めつつあるのだ。
2025年10月には、世界アルツハイマーデー記念講演会に登壇し、「認知症の母が教えてくれたこと」をテーマに語った彼女の言葉は、単なる体験談ではなく、複雑な感情を抱える介護家族に向けた普遍的なエールとなっている。
笑いという「転ばぬ先の杖」
にしおかさんの活動の根底にあるのは、介護の重さをユーモアで包み込む力だ。講談社から書籍化された『ポンコツ一家』が示すように、彼女は自らの家族を「ポンコツ」と呼ぶことで、悲劇的に捉えられがちな介護の現実を「笑い」の対象へと昇華させてきた。
彼女は、母の認知症や姉の障害に対し、「転ばぬ先の杖」を意識し、事前に備えることの大切さを学んだと語る。しかし、それ以上に重要なのは、現在の苦悩を将来の自分や、同じ境遇の人々のための教訓として発信し続けるという、ジャーナリスティックな使命感だろう。
にしおかすみこさんの介護生活は、団塊ジュニア世代が直面する「親の人生と自分の人生」の狭間での葛藤を象徴している。「家族が亡くなっても私の人生は続く」――この強い決意が、彼女が介護の現実と向き合いながら、芸人として、そして一人の娘として、新たな人生観を見つける原動力となっている。彼女の率直な発信は、自己犠牲が美徳とされがちだった日本の介護のあり方に、新しい風を吹き込み続けている。